記録No.11 賞賛と嫌な予感

「っはぁ…はぁっ…っはぁふ…っふぅ…」

《ぜぇ…ぜぇ…はぁ…》


お互い1歩も引かぬ攻防戦によって、かなり疲弊した。

こちらはビームサーベルを喰らった瞬間人生のエンド、相手は機動性重視の機体、『蒼空』、無論装甲はほとんど無いに等しいので周波ブレードとスキンシップした瞬間に詰みだ。


《…貴様…名は…?》


…俺は一瞬躊躇い。


「…ディーコン…ウェイド…戦争を…終わらせる者だ…」


回らない頭を回して自己紹介をした。

あながち外れてないだろう、終わらせる気ではあるのだから。


《面白い…二度と忘れん…》


そう言って奴は、背中を向けて去っていった。

機影はゆらゆらと揺れながら、消えていった。


「システム…カウントダウンは…」

「残り10秒…パイロット、衝撃吸収装置を起動させます』

「頼む…」


俺は微妙に遠くなる意識を保ちながら、常温になってしまった栄養補給ゼリーを口に流し込んだ。

その後、爪楊枝を噛んだ。

やっぱり戦闘後はミントだ。


「っは…生き返るなぁ…」

「大尉!」

「!…少佐、燃料が切れかけなので補助を頼みます」

「というかもう落ちてますよね⁈」


少佐は急いで愛機スパイクに連結した。

少佐の機体もオーダーメイドのようで、装備から察するに前線向きではないようだ、センサー系のものが良く見える。


「各員、ディーコン大尉の無事を確認しました」


と、少佐が全体の無線チャンネルで報告すると、


「え?!マジかよ…」

「おいマジ!?」

「おいおい…さすがにヤバいだろう…」

「ほ、ほんとに一人でやりやがった…」

「今までんな事あったか?…」


無線内がざわざわしている。

…いたたまれねぇ…


「はいはい、とりあえず基地に戻るぞお前ら〜、ミッションレコーダを確認する時だ」


なんだあのイケボは!?

っと、本能的に脳内で叫んでしまったが、あの声はこの隊の中のエース的存在、撃墜数1599のアルフレート・クルーフ少尉だ。

なんというか、まさに兵士という感じの落ち着きがある。

また後で話してみようと思った。


「少佐」

「はい?」

「先程の部隊、『残酷兵士』の部隊でした、ミッションレコーダを確認していただければ分かりますが、相手側にドローン機とアンカーを使う機体を確認しました」

「…ドローンに新型、エースまでいたんですか…?」

「えぇ、案外多かったです。一人でやると言った以上引くに引けなかったので」

「全員からかい意味だったと思うのですが…」

「…とりあえず戻りましょうよ」


俺はほんとにいたたまれなくなってきたので、一刻も早く戻りたかった。




「…なんだあれ…」

「は〜よくわかんねぇ…」

「バケモン…」

「『武神ぶしん』でも宿ってんのか…」

「『武神』か、いいなそれ、今度からアイツそうやって呼んでやろうぜ」


ミッションレコーダを部隊員全員で確認した結果、俺は『武神』と呼ばれるようになった。

ほとんど母さんの猿真似をどうにか自分のものに…いや、完全にはできていないが、元は母さんの機体の扱い方なのだが…何故だろうか…

あとリズに、


「…騙しましたね?」

「…な、なんの事やら…」

「…吐かないでくださいね」

「うぼぁッ!?」


怒りの鉄槌を喰らって内臓が悲鳴をあげた。


「ん?」


散々隊員共に弄られてから、荷物を部屋に持っていき、少々寛いでいると、無線に通知が入った。

見ると、


「もしもし?」

「も、もしもし…聞こえてる?」

「おう、聞こえてる…ぞ…」


シャロだった。

んでもって、俺は指輪の件を思い出して、顔に熱が上がってきた。


「…どうかしたの?」

「いや…疲れてるだけだよ…あ、その〜…」

「なに?」

「…あの〜…左手の薬指の指輪ってさ…」

「…う、うん…?」

「…け、結婚指輪って意味なんだな…」

「………そ、そうらしい…ね」


…さすがに直接「あれってプロポーズなのか?」と聞くのは俺的にも辛いものがある。

というか辛い、男のプライド的にも羞恥心的にも。


「…あ、さ、さっきまで戦闘しててな?」

「!…そうなの!?」

「お、おう、そんな心配しなくても被弾はしてないぞ」

「…でもどーせ1対30とかしてるもん」


さすが相棒、分かってらっしゃる。

だが少し違う!


「残念だったな1対80だ」

「馬鹿なんじゃないの…」

「リズの真似か?」

「…お姉ちゃんなら『弱い犬ほど吠えるのよ』って言うよ」

「言われそうだなぁ…」


…やはり、落ち着く。

2人…まぁ俺らのことだが、かなり相性がいいほうだと思う。

まぁ時々戦術の事でシャロがマジに怒ったりはあるのだが、なかなか意見がすれ違うとかそういうことは起こらない。

少し間が空いて、


「…ディー」

「ん?」

「死なないでよ?」

「有り得ねぇだろ、死にはしねぇよ」

「で、でも…明日ぐらいには行くんでしょ、『死戦場』…」

「敵の新兵器の情報が入り次第、だな…つっても、ドローン500機備えたバケモン、そうだなぁ、ベヒーモス級のデカさとか、そんな本の中の出来事、みたいなことがなけりゃ問題ないだろ」

「…それただただディーが苦手って言ってたヤツじゃ…」

「インチキ兵器ほんとに許せねぇ…あとあのデカブツなんなんだよ、誰だよシュミレーションに入れたバカは」


ドローンは前述の通り色々と因縁がある。

あとベヒーモスとは、山より大きな…カエルとオタマジャクシの中間のような化け物である。

あれは真面目に大変気色悪い上にデカすぎて色々とヤバかった。


「…まぁ、現実にはないと思うよ…多分」

「あったらちょっと勝てるか不安だわ」

「有り得ないと思うけどね…」

「それはどっちが?」

「…ディーが負けること」

「あ〜リアルなら撫でてやったのに…」

「…じゃその分ためとく、それじゃ、もうそろそろ…」

「おう、じゃあ、またな」


無線はそこで切れた。

…なるほど、これが寂しさか、長らく忘れていたぜ。

と、少しブルーになってから部屋を出ると、


「おい!『武神』!」

「は、はい?」


血相を変えた部隊員が居た。

かなり息が荒れていて、走ってきたのがわかる。


「おめぇ無線私用で使ってたろ…まぁいいか、嫁さんでもいるんだろ…」

「よっ…いやいませんよ!」

「はいはいそうかい、じゃ着いてこい」


そう言って走り出したので、俺はついて行った。


「何なんです?」

「ミーティングだ、敵の超巨大新兵器の情報が入ってな!こいつぁかなりの大物だ、スケール的にも、戦果的にもな!」


微妙なジョークを言いいながら、とんでもないことを軽く言い放った。

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