記録No.9 この手に限る。

「ヒュー!粉砕!玉砕!大喝━」

「━パイロット、余計なことは身を滅ぼします』

「ッチ…はいはい、照準に集中しますよ…」


操縦桿を握り直した。

ちなみに今行っているのは全弾斉射、いわゆるフルオープンアタックである、が、この…技?をしようとすると、相手に相当隙がないと無理だ。

今は相手が隊列を立て直そうとしている最中だったので狙えた。


「さって〜…システムさんよ、何機やった?」

「七十数機は機関部、又は武装等に被弾して撤退した模様』

「そいつァいい報告だなぁ」

「追加報告、残った5機のうち、2機が急接近』

「おいそれは早く言え!」


俺はすぐさま出力調整器を蹴り、後方にスラスタを吹かした。

正直あんな感じの動きの部隊に吶喊なんざ有り得ねぇと思って、可能性を潰していた。

まぁ完全に勘だったので、経験がいるなぁとしみじみ思った。


「まぁ、もうそろ援護頼んでもいいか…システム!無線は」

「…パイロット、先程通信妨害を…』

「あっ…」


つい癖でシャロに援護を頼む感覚でいた。

…あのお手製小型クラスター弾、結構有能だし、

無い物ねだりしてもしょうがない、とりあえず無線はつけっぱにしておいた。


《連合のパイロットさ〜ん?きこえてるかしらぁ〜?》

「…予想外だな」


…無線つけなきゃ良かったと後悔した。

俺はそのまま相手との距離を取っている。


《ソジュ〜、あとからドローンの合図お願い》


どうやら両方とも、敵に無線を繋ぐタイプのパイロットらしい。

頭いかれてんのかよ…全く。


「はぁ…何用かな?共和国パイロット」

《あら〜、あなたは返してくれる側の人なのね〜殺すのが惜しいわね〜》

「…面倒くさそうだな…」

《相手を必要以上に煽らない、ジェームス爺に言われてるでしょ…》

「あん?今なんつった?」


ジェームス、と聞こえた気がした。

というかばっちり聞こえた。

俺が恨みを抱いている男の名前が…


《ジェームス爺のことかしら?やっぱり連邦でも有名なのね…》

「いいや?んなクソ野郎を知ってんのはある程度の人間しかいねぇさ」


さっきまであったゆるい雰囲気が凍りついた。


《…話してくれる連邦兵だから手心を加えてあげようかと思ったのだけれど…その必要は無かったようね》

「そりゃどうも、こっちも遊んでやる道理が無くなった…んで?そのクソジジイはまだパイロットやってんのか?うん?」

《黙れ!ジェームス爺に失礼な事を━》

《構わん、マル、私直々に話そう》


少し低く、少し老いた声が聞こえた。

あのミッションレコーダを聞いた時から、耳を離れない声だ。

全身の細胞が湧き上がった。

…いや、怒ってもしょうがない、落ち着け、と自分に言い聞かせ、何とか踏みとどまった。

踏みとどまっていた。


「…やぁ、クソッタレ…」


俺は冷静をつくろって

レーダーには気づけば敵影5。

燃料残量40%、射撃兵装残レールキャノンのみ。

通信妨害されていて味方の援護は頼めない。

これ以上ないほど絶望的な状況なのに、心は微妙に踊って、舞っている。


《初対面に随分な言葉遣いだな…まぁ良いか、先の戦闘を見るに、私『残酷兵士』ともわたりあえる実力じゃ》


感心したような声を出している。

これほどの屈辱はなかなかない。


「…フレ…ム・ホー……」

《ん?》

「フレイム・ホークッ!!この名前に聞き覚えはないかッ!!」


俺は堪えきれず、大声を出した。

そう、こいつは━


《……あぁ、あの━》


やつは半笑いになって、

━母さんの仇だ。


《━最後まで役に立たぬ味方を守り、散っていった無様なハエか》


言い放った。

…俺はもう我慢の限界だった。

目の前に仇が居て、そしてそれに煽られる、これ以上堪えることが出来ようか?

俺は無線をブチ切った。


「…システム」

「パイロット、冷静になるべ━』

「━黙れ、喋るな、指図するな…大人しく用意してろ」

「…燃料残量から計算するに、活動可能時間は3時間…しかし、推奨できない。今こんなところで無茶をする意味は無い。』

「うるせぇっつってんだよ…」


耳はシステムの言うことなど全く聞く気がない。

だが、俺は少しシステムを甘く見ていた。

人以上の理解速度、思考速度を持ち、人を理解している。

それがどういう事か。


「…パイロット、結婚指輪は通常、左薬指に付けるもの』

「は?急に何言ってんだ?」


戦闘のせの字もないことを言われ、俺は理解理解に苦しんだ。

そして、思い出した。

完全に頭から抜けていたことを。

俺は左手に視線を落とした。


「あ…………ふぅ〜〜〜〜…OK…」

「…同期パイロット、シャーロット・フェンが羞恥していた理由』

「…それに気づけなかった俺も大概だよ…OK、冷めてきた…」

「…疑問、なぜ気付けなかったのだ?』

「おいやめろ虐めてくんな」


小馬鹿にされた。

よし、完全に冷えた。


「んで、システム、現実的にこいつらを排除するには?」

「援護は頼めないため…!…パイロット、回避行動!』

「っ!!…んな事簡単に出来るから、とっとと案を言ってくれ!」


敵の砲弾やビームがさっきまでいた座標を抉り抜く。

練度の高い連携である。

どうやら俺が何も言わなくなった上、動きもしないので攻撃を開始したのだろう。

本来なら既にやり合っているはずなのだが…


「提案、……………………』

「……なるほど?まぁ計画的だな…相変わらず俺一人の作戦だが」

「実力は申し分ないため、問題は無い』

「ヒューそりゃかっけぇな、エースがいるのにそれプラス4機で勝てるってんだろ?バケモンだなぁ」

「…燃料残量的に、発動後活動可能時間は30分』

「そんだけありゃ十分だ、レッツショウタイム!」


俺はシュミレーションでシメにいつも押していたボタンに触れた。

機体スパイクが俺の声に反応するかのように吠えた。

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