記録No.7 出発
あの後自部屋に荷物を置きっぱなしにしていたことを思い出して、2人揃って猛ダッシュで取りに帰り、また猛ダッシュで格納庫へきた。
「きょ、教官…何故ここに」
「ああん?教え子がこの戦争でいちばん過激な激戦区に行くってんだ、見送らない教官はいないだろう?」
格納庫には整備スタッフが数人、派遣先部隊のパイロットが複数名、その中にはローナ少佐、リズ、その他パイロット達…シュミレーションでボコしてしまった士官もいた。
傍から見た感じ、どうやらというか、やはりというか、ローナ少佐が上官のようだ。
部隊長とでも言うべきなのだろうか。
そしてあの人が隊長なら、リズの立ち位置は一体…
色々と考えて俯くと、下にいる部隊員の1人と目が合う。
と同時に、
「ディーコン大尉!早くしてくださいよ〜!」
ローナ少佐が声をはりあげた。
オマケに満面の笑みで。
…シャロの方をちらっと見ると、怒っているかと思ったが特に気にしてもないようだ。
正直言って珍しい、なんせあのシャロだ、少しぐらい不機嫌になるかとも思っていたのだが。
ちなみに少佐の方は俺に声をかけたあと、さっさと他のパイロットたちに指示を飛ばしていた。
上官の鏡である。
「あ〜そうだディーク、私からは特に渡すものは無いが、ひとつだけ言っておきたいことがある」
教官も何かあるようだ。
教官は1歩俺に歩み寄り、まっすぐと俺の目を捉えた。
改めて見てみても、ゴッツイガタイである。
見つめ返した瞳はいつもより不安に揺れていた。
「戦場では常に冷静になれ、特にあの激戦区…『
「━教官」
教官が必死になって伝えている所を、俺は遮り、
「俺が死ぬとでも思ってるんですか?シャロも居るのに?まだまだ余生が残ってるのに?つーか成人すらしてないのに?冗談じゃないっすよ」
「…それは…そうだな、お前はそういうやつだった。実際実力もあるもんな…」
「でしょう?なので、ご心配なさらず」
俺は教官に対し気をつけ、敬礼をした。
ちなみに『デッドゾーン』というのは、元々火山があり、かなり荒れた岩場で、近くには海もあり、少し離れたところには島々もある場所だ。
なぜそこがそんな呼ばれ方をするのかと言うと、両国がそこをなんとしても占拠したいが故に鍔迫り合いが発生しているのである。
おかげで教官が述べたとおり、エース級、それ以上の実力者や普通の兵士がポンポン落ちている。
それが『デッドゾーン』だ。
「…ところでディークよ」
「はい?」
納得していた教官がおもむろに口を開いた。
「その指輪…なんだ?」
教官の目の奥がいつも通りの感情に戻った。
今度は微妙に困惑している。
あとシャロが固まっている。
「あ〜これですか?シャロに貰ったんですよ、良いでしょう?俺あの大会出てませんけど」
ちなみに俺が出たのは、ひたすら機体をはっ倒すという名目の『殲滅数大会』である。
単調なネーミングだが、俺はそこで1人『記録:継続時間の限界による計測不能』という前代未聞の壁を作った、景品は写真を入れられるペンダントだったが…確かとある事があったせいで窓から投げ捨てた覚えがある。
補足するが、あの記録のせいで以降大会に出して貰えなくなった。
「あ〜…なるほど、シャロは大胆だと思っていたが、ようやくここまで踏み込んだのか」
「っ!?きょ、教官っ!やめてください!」
シャロがなぜ焦って教官に近寄って行った。
はて?、なにか焦る点があっただろうか?
「ん?教官、贈り物はお互い時々してますぜ?」
俺は最もなことを口にした。
というか全く考えがつかないと言ったほうがいい。
「はぁ?何言ってんだ?その着けてる位━」
「━教官!ディーは気づいていません!あとやめてください!」
2人してなにか騒いでいる。
なんだろう?おかしなた所でもあるのだろうか?
「…え?気づいてないの?」
「…はい、顔色ひとつ変えませんでしたよ、私がつけた時」
「え?わざわざシャロがつけたの?」
「はい、むしろこっちが恥ずかしかったです」
「なのに?」
「気づいてません」
「…こいつなんだ?そんな属性あったのか?」
「…おそらく過去のことが原因なのかと…」
「…なるほど、でもさすがに無反応は…」
なんか途中から小声で話し始めた2人、俺はもうそろ行かないといけないのだが…
「大尉〜!!!まだですかぁ〜!!」
「あ!はい!すぐに行きます!」
候補生大尉、急かされました。
さて冗談かはこの辺にして、これ以上待たせるとリズとかにぶん殴られそうなので早く行きたい。
未だ目の前のふたりは小声で話し合っている。
「ちょっと?そこ2人、もう行きますよ?」
「あ、え、き、気をつけて!」
「帰ってこいよ〜」
「はい、じゃまた!」
渡り廊下を走り、自分の機体の前へ到着した。
…コクピットハッチに拳を当てる。
「…過重労働になるが、頼むぜ…」
過積載、過重労働、異次元軌道。
この機体じゃないとここまで持ってないんじゃないかと疑えるレベルだ。
今までもこれからも、という意味で先程の言葉を述べた。
まぁ、相手は機械だ、感情やらなんやらがあるはずがない。
…ただ、母の機体の設計を受け継がせたこの機体には、少なからず愛着はある。
というか普通にある。
この機体の開発経緯はまたいつか話そう。
俺はコクピットに乗り込んだ。
「さぁ、行くか!」
各種設定を起動、確認して、カタパルトに足をつける。
ふと、門出のように感じて脳裏に子供の頃の記憶が過ぎる。
と言っても、今も子供な訳だが…
とりあえず頭を振って、余計なことを外に出して、電磁レールの流れに身を任せた。
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