記録No.6 相棒、攻める

「…荷物は特にないし、着替えだけ持ってきゃいいな…無線もちゃんとある、よし」


部屋で最終チェック中だ、シャロは寝ている。

最終チェック、と言っても、持ち物は本当にすくないのだが。


「…ふぁ〜…ぅ〜…」

「あ、シャロ、起きたのか」


シャロが目を擦りながらベットから降りてきた。

特に寝癖も着いておらず、相変わらずいい髪だなぁ〜と眺めていたら、


「んん〜…ねむぃ〜……あ!でぃー、ちょっとまってて!」

「え?おい?」


シャロが何かを思い出したような顔をして、部屋から出ていった。

急いで、その背中を追いかけた。

シャロの部屋は女子棟ある、見失ったら大問題になりかねないので、急いで追いついた。


「シャロ、急にどうしたんだ?」

「渡すものがあること、忘れてた」

「なるほど、じゃあ急ごう、俺も遅れたらシャレにならんからな」


2人の有力候補生が、夜中に廊下を駆けている。

階段を上り、また廊下を走って、シャロの部屋に着いた。


「ちょっと待ってて〜…」

「へいよ〜」


シャロは部屋に入っていった。

俺は暇ができたので、無線を使い、


「あ〜、少佐、聞こえますか?」


チャンネルを切り替え、ローナ少佐に繋いだ。


「あ、ディーコン大尉ですか?あと少しで出発ですよ?遅刻の連絡でもしに来たんですか?」


…これで少佐の俺に対するイメージの予想が着いた。


「…多分遅れることは無いと思いますが、一応連絡を入れておこうかと」

「そうですか、なら良かったです、早めに来てくださいね?では」

「はい、また後で」


なぜわかったんだあの人…

そしてあの人俺の事小馬鹿にしているな、と分かったところで、


「お待たせ」


シャロが部屋から少し赤い顔をしながら、喜びを滲ませた顔をして、出てきた。

俺は少々困惑したが、顔には出さずにいた。


「おう、で何を?」

「…これ」


そういって、シャロは俺の掌に、


「…指輪?」


指の太さのサイズの輪っかを置いてきた。

シャロの瞳と同じ色の橙色だいだいいろの宝石が付けられていた。

…これは?


「普通のじゃないよ━」


珍しくシャロは攻めの姿勢らしい。

疑問をうかべた俺の顔を両手で挟んで、自分の顔の前に引き寄せた。


「━私が昔貰った、候補生射撃能力大会の優勝賞品、パイロットリング…大切なものだから、ディーにあげたくて、ね」


少し照れながらシャロははにかんだ。

…俺は衝動に抗えず。


「むぐっ!?」

「うちの相棒可愛い…」


シャロを抱きしめた。

こればかりはシャロが悪い、うん。


「んぐ〜!…っぷは、ば、バカディー!急にはやめてっていったじゃん!」


シャロは真っ赤な顔をして抗議している。

可愛すぎである。


「仕方ないだろ…あ、もうそろまずいな、格納庫行くぞ」


時間が押している、という旨を伝えると、


「ま、待って、ディー、指輪ちょうだい」

「ん?ほれ」


シャロは顔を赤く染めたまま俺に指輪を要求してきた。

先程渡してきたばかりなのに、と俺は意図が分からないまま指輪をシャロの小さい手に置くと、シャロは俺の手を掴んで、


「…これでよしっ」


俺の左手の薬指にはめてくれた。

ほんっとに可愛い…


「したかったのか?」


聞くと、今までにないぐらいの笑みで見つめ返してきた。

初めてシャロにドキッとしたとは口に出すまい。


「うん、じゃあ、行こう?」


シャロは俺の左手を掴んで、格納庫へ向かい始めた。

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