記録No.6 残る不安
「いやぁ〜食った食った、久しぶりのカツ丼は美味いもんだぜ」
独り言をボヤきながら部屋に戻っている。
実際あれは美味かった。
と、戻る途中、格納庫内で異常な存在感を放っている機体に目をやる。
「…随分とごつくなっちまってんなぁ…」
元々細身だったくせに、と頭の中で付け足した。
しっかし本当にめちゃくちゃに盛ったもんだ、明らかに過積載である。
誰だあんな改造計画立てたのは。
「…俺なんだよなぁ、とりあえず寝るか」
俺は部屋へと歩みを早めた。
「むゃ…むむ…」
「…やっぱ居たか…」
部屋に入ると、相変わらずの童顔…というか、十分ロリと言える相棒が寝ていた。
寝顔まで天使とは恐れ入ったもんである。
「電気はつけらんねぇな…横で寝て起こすのも悪いからなぁ…どこで寝ようか…」
俺の部屋にはベットとデスク以外これといった物がない。
一応寝袋は確か押し入れに閉まっているはずだが…この暗闇である、おそらくなにか物に当たるだろう。
そうこう思案する事2分ほど、
「…んみゅ…あれ?でぃ〜?…」
天使が目覚めてしまった。
寝起きで意識が完全に覚醒してないのか、起き上がって目をこすっている。
仕草すら可愛いとは恐ろしいもんである。
「あ、シャロ…すまんな、起こしたか」
「ううん…まだねむいし、だいじょぶ…」
「そうか…」
気を使わせている気もするが、とりあえず今のうちに押し入れから寝袋を取り出そうと歩みを進めた。
「…でぃー、いつ行くの?」
雰囲気が、寂しく、悲しいものに変わった。
「…残念ながら、今日の深夜だ、本部命令でな」
心が重い。
罪悪感をここまで感じたのは、守れたかもしれない戦友が敵国に誘拐された時以来だ。
…嫌なものを思い出してしまった…
「…ふ〜ん…そ、っか…ざんねん、だなぁ…」
暗闇の中、シャロの顔がうっすらと見えた。
泣かせてしまっている。
相棒として…失格である。
「…ごめんな…」
せめてもの償いとして、頭を撫でた。
相変わらずサラサラで、実に触り心地のいい髪の毛だ。
「…んふ〜……でぃー…来て〜」
実にご満悦のようで、そのまま俺に添い寝を要求してきた。
無論断るはずもなく。
「…ったく、しょうがないな…」
俺は布団に入った。
もう慣れてしまったシャロの匂いが、ベットを包んでいた。
「…うれしくないの…?」
どうやら、俺がいやいや入ったように見えたようだ。
さっきまで寝袋を用意していただからだろうか…いや、たんにシャロを起こしたくなかっただけなのだが…
「誰もそんなこと一言も言っちゃいねぇよ…それより━」
俺は否定しながら、
「━シャロの方は、これが嬉しいんじゃないか?」
今にも寂しさで壊れてしまいそうな相棒を、抱き寄せてあげた。
「っ…び、びっくりするから急にはしないで…」
シャロは俯いて、布団に顔を隠してしまった。
ただまぁ、耳が赤いのでどうなっているかは、丸わかりなのだが。
「……ふ〜ん?嬉しくないのか?」
「…でぃーがいじわるだ…うぅ…」
俯いたままシャロはごにょごにょと口ごもっている。
…俺はとあることを思いついて、行動に移した。
「…ふぅ〜…」
「ひゃぅんっ!!??……っっっ!!!」
シャロは猫のような声を上げて俺の腹に突撃してきた。
というか連続で頭突きを仕掛けてきている。
いちごのように赤い耳に、息を吹きかけただけなのだが、ここまで反応がいいとは思ってなかった。
「シャ、シャロ、落ち着けよ、悪かったから」
「ばか!ばか!ばかばかばかばかばか!…」
シャロは未だ頭突きを続けており、なんとも愛らしい攻撃が俺の胸を襲っていた。
「ばかばかばかばか…でぃーのこともっと好きになっちゃう…」
赤面しながら目をきゅっとつぶってポコポコと胸を叩くというなんともヒロイン臭のする行動をとっているシャロ。
俺は運がいいと思う。
こんなに可愛い相棒に恵まれたのだ。
なのに俺は派遣されて今日の深夜には出ないといけない。
現実とは、ままならならいものである、しかし、とある方法で話すことは出来る。
今思い出した。
「…シャーロット」
「…な、何?…」
「別にお前を捨ててどっかに行く訳じゃない、相棒のピンチにはどこにいても駆けつけるし、話したい時は無線を使えばいい、持ってるだろ?」
普段無線機器を着けている、胸ポケットあたりをポンポンと叩いた。
一応私的利用は許可されている物だ、確か。
「……あ、そっか、いつでも話せるんだ…話せるんだ!」
「お、おう、急に元気になったな」
シャロは満面の笑みを浮かべた。
俺はつい頭を撫でた、可愛いんだものしょうがない。
「…安心もできたことだし、寝ようぜ?」
「うん!」
シャロは「んふふ〜」と声を漏らしながら俺にぴっちりと引っ付いてきた。
犬が寝る時、子犬が母犬に包まれて寝ている図があるだろう?あんな感じだ。
「…おやすみ、シャーロット」
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