記録No.3 通達
「…来たか、ディーク…1人だな」
「はい、言われた通り、シャロは起こしてきませんでした、あの件がありますし」
俺は1人早朝に教官に呼び出されていた。
昨日格納庫で機体を弄っていると、その旨を伝えようとした教官と鉢合わせしたのだ。
シャロのあの件とは…まぁ、語るにはまだ時期尚早だ。
「…確かにな……あまり期待はしすぎるなよ」
そう言って教官は茶封筒を渡してきた。
「…開けても?」
「そのために呼んだんだ、私もまだ中を見てないからな、読み上げてくれないか?」
「了解です」
開封して、中の用紙に書かれてあることを読んだ。
「…通達文、ディーコン・ウェイド候補生に、君は候補生という身分でありつつ、敵機を30機も落とし、エースとも対等に渡り合ったと、データより確認した、よって、君には『大尉』の階級を贈呈する、しかし、まだ君は未成年なので、成人した際にこの階級は有効となり、即座に戦場に配属されることとなるだろう、残りの1年、鍛錬を怠らず過ごすように。連邦軍最高司令官:カルスフ・ジークバルト」
俺はその文を読み上げた。
無駄のあまりない文に、本部の余裕のなさを微妙に感じた。
「…ディー…」
「どう、されました?教官…」
落ち着かないのか、机の端に体重を預けていた教官が、俺の正面にたち、目を見開いていた。
次の瞬間、
「良かったなぁ!大尉だぞ大尉!」
「わぷっ…きょ、教官、一応まだですよ…」
「しかもまだ1年猶予、…つまりシャロとは離れずに済むってことだ、よかったな」
「…それはそうですね」
俺と教官は互いの嬉しさに抱き合っていた。
しかし、教官の喜び具合がおかしい気がする…
「教官、テンションおかしくないですか?」
俺はあまりに教官がはしゃいでいるように見えたので、聞いてみた。
「これが喜ばずにいられるか!教え子が大尉確定なんだぞ?これだけでもまぁ嬉しいが、その上、大尉という階級があれば、戦場でも少しの融通は効く、どういうことがわかるよな?」
「…どういうことです?」
「シャロを相棒として近くに置いとけるだろう!」
「え?あぁ…そうなんですか?」
「無知かお前は、こういう所は頭が回らないな…」
教官は呆れて額に手を当てていた。
が、そもそも俺はシャロと離れるつもりが無かったので、考えていないという訳ではなく、なるようになる、いやすると思っていたので、なんというか微妙な気分だ。
だが、あと1年猶予が出来て、シャロと同タイミングでちゃんとパイロットとなれる。
この事実をシャロに伝えようと俺は思った。
「教官、シャロに伝えたいので、戻ってよろしいですか?」
「ん?あぁ、悪かったな、下手に抱き合うとシャロが嫉妬の眼差しを向けてくるもんな」
「そういう仲じゃないんすけどね…まぁ、そうっすね」
「あいつお前にベタ惚れだろ、どう見ても」
「…だからこそ今こういう関係で保ってるんです、恋愛関係は、不安定ですから」
「…悪かった、
教官は気まずそうな顔をした。
俺は直ぐに、
「教官が気にすることではありませんよ、俺の失態であんな事があったんですから」
「…わかった、これ以上は何も言わない、じゃ、私は別の仕事があるんでな、さらばだ」
そうして教官は、人差し指と中指を揃え、敬礼っぽいものをしてから、前に払った。
「えぇ、お気をつけて」
俺は笑顔でそれに応えた。
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