新婚旅行 初日 前編
お盆休みに地元に帰省して、隼瀬の実家の部屋で若夫婦は北海道の地図を見ながら、仕切り直しの新婚旅行計画を練っていた。
「これ行きたいとこありすぎるな」
「北海道って本当になんでんあるね」
隼瀬の言う通り、観光地もご当地グルメもなんでもありすぎて道内での行き先を絞るのに迷っていたのだ。
「ばってん函館は僕、絶対行きたいな」
「なら新千歳出てから道央道下ってそんまま函館行ってぐるっと回るか」
「結構なツーリングになるね」
「あんまタイトにならんごつ私もなんとか休み取るけん」
というわけで1ヶ月後、無事に冬未も連休が取れ、夫婦は少し暑さも落ち着いてきた北の大地に降り立った。
「初めての北海道だー!」
「隼瀬、まだ空港も出とらんたい」
「ばってんなんかテンション上がるよ」
「まあ確かにね、さしよりレンタカー予約しとるけん手続き行こ」
既に初めての土地で高揚感が抑えきれない夫婦は空港施設内のレンタカー屋からいよいよ本当にその旅をスタートさせる。
「なんか景色見たいし高速乗るのもったいない気してきた」
「そうね、時間はあるし下道で回ろうよ」
というわけで高速を使わないルートにナビの設定を変え、函館方面へと向かう夫婦。
「ふうたん、なんかこの先にソフトクリームの有名なお店あるごたっよ」
「じゃあ、はあたんの言いよるとこ寄ろっか」
旅の高揚感からか思わず昔の呼び方になる隼瀬に冬未も合わせる。隼瀬としてはあまりに自然に出て自分でもびっくりしていた。
「なんか自然に昔の呼び方出た」
「私も自然にはあたんって呼んでしもたわ」
「ばってんもうよかか、昔みたいに呼び合おうよ」
「ちょっと前までは恥ずかしいけんやめよって言いよったくせして」
「いや、だって小学校上がってからとかは本当に恥ずかしくなった時期あったし」
「だけん名前で呼び合おうてあん時言うて来たつか」
「そうそう、今はもう夫婦なんだし何も気にすることにゃあし」
「そっか、てかはあたんの言いよった店ってあれかな、だっご混んどるごたばってん」
「ばってんせっかく来たし並ぼうよ」
「ま、時間はあるしいっか」
というわけでなんとか車を止め、行列に並ぶ夫婦。他の客はバイクで本州から渡ってきたライダーが殆どで、隼瀬達より少し大人の彼女達は若い夫婦に興味津々で話しかけてくる。
「へー葛西さん達まだ19歳かあ、いいねえ」
「婿さん可愛いなあ」
「よーし、おばちゃん新婚さんに奢ってやるわ」
「いえいえ、そんな悪かですよ」
「いいって、ここで会ったのも何かの縁でしょ?」
冬未も隼瀬も流石に今会ったばかりの人に奢ってもらったりするのは申し訳なく断り続けるが、そのおばさんライダーは強引にお金を払ってしまい、二人とも深々と礼を伝える。
「「ありがとうございます!この御恩は絶対返しますので!」」
「若者がそんなの気にする事ないよ、そうだ、さっきから方言みたいなの喋ってたけど、二人は九州の人?」
「そうですが?」
いくらなんでもちょっとの方言でなんで九州だって分かったんだろうと冬未が不思議そうに答える。
「やっぱり、うちの婿さんも九州の出身でね、言葉が似てたからもしかしてって思って」
「そういう事ですか、おばちゃんの婿さんって九州のどちらですか?」
「福岡の八女よ」
「あー、なら似とるって言うのも分かりますね」
「へー結構近いんだ」
「はい、で、あのー、やっぱりこのままバイバイって言うのも申し訳ないですし、今度は私達奢るんで夕食でもご一緒しませんか?」
冬未がそう言って、隼瀬もお願いしますと頭を下げる。おばちゃんは新婚旅行に水をさすのではと断ろうとしたが、それでも夫婦が食い下がるので結局付き合う事にしたのであった。
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