せっかくだし



碧を家まで送り届けた後、冬未が何かソワソワしているのを察して、隼瀬が声をかける。



「冬未、せっかく出てきたけんどっか行きちゃあとだろ」



「え、べ、別に私はなんも・・・・・・」



「ソワソワしとったい。まあ僕もまっすぐ帰るのもあれだけんね」



「隼瀬・・・・・・よし、じゃあ行きたいとこあるけん運転代わって」



「はいはい」



一旦車を降りて席を代わる二人。



「うわ、隼瀬シート前出しすぎだろ」



「だって前出さんとクラッチ奥まで踏めんもん」



「あー男ん子は大体そっか。よし、行こう」※この世界では基本的に女子の方が体格がいい



「どこ行くと?」



「着いてからのお楽しみたい」



そう言ってニヤリと笑い、車を出す冬未。ちなみに冬未も隼瀬も免許取得したあの日からしょっちゅう運転しており、多少は四輪の運転にも慣れてきていた。そもそも二輪で機械の仕組みも理解していて道路にもある程度慣れていたのが幸いしたわけである。



「そっか、じゃあ楽しみにしとくね」



隼瀬も内心ワクワクしつつ、運転する冬未の横顔を見る。



「やっぱ運転しとる冬未、好きだな」



「なんや急に」



「よく妻のかっこいい瞬間ランキングとかであるやん、本当にそうだなって」



「やめろ恥ずかしい、えーと、こっちからなら・・・・・・」



住宅街の狭い道を落ち着いて抜け、大通りまで出てきた後、冬未は熊本駅の方面へと向かう。この時点で隼瀬は彼女がどこに連れていこうとしているか分かったが、敢えて言わずに到着を待つ。



十数分後



「冬未って意外とロマンチストよね」



「意外とは余計たい、にしても意外と人おらんね」



冬未が隼瀬を連れてきたのは、県内でも有名な夜景スポット独鈷山どっこさん祈りの丘記念公園である。それなりの混雑を覚悟してきたものの、案外人はまばらで少しほっとする冬未。



「そうね、まあこの方がゆっくり見れるね。ばってんいつ見ても綺麗ね・・・・・・」



「隼瀬の方が綺麗よ」



「冬未・・・・・・」



「隼瀬・・・・・・」



お約束のような展開になる二人だが、その雰囲気はある人物によってぶち壊される。



「冬未と隼瀬ちゃんだ!」



お久しぶりに登場した恵美。冬未の転校前の同級生だ。いいタイミングで話しかけられ、冬未は若干苛立ち気味である。



「なんや恵美」



「あ、もしかしてよかとこだった?ごめーん、続けて続けて」



「「アホか!」」



夫婦息ぴったりにつっこむ二人。して、落ち着いてから恵美に率直な疑問をぶつける隼瀬。



「あれ、恵美ちゃん1人?」



「そうばってん、女1人でこぎゃんとこ来ちゃ悪かや?!」



「別に悪いとは・ ・・・・・・」



「そりゃ普通は夫婦とかカップルで来るとこだんね、私みたいな男の子に相手もされんいもが来るようなとこじゃ、あーあブツブツ」



何やら1人でぶつぶつ言い出した恵美を放置して駐車場へ帰る二人であった。




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