第六章

お姉ちゃん




200X・・・じゃなくて2007年 5月



年月をはっきり書くのは初めてだが、平成元年生まれの冬未と隼瀬は18歳の誕生日の少し後、二人で免許センターに来ていた。早めから通っていた自動車学校を卒業し、免許を書き換えるためである。二人は既に普通自動二輪は持っており学科試験免除となる為、書き換えというわけだ。平日である為、学校側にも事情を話し、二人とも休みという事になっている。そして、新しい免許証を貰った二人は連れてきてもらった暁美の車に乗って車屋へと向かう。



某カーディーラー



「へーそぎゃん機能が・・・・・・」



暁美が買ってくれた車の説明を受ける冬未と隼瀬。ちなみにMT車という事もあって比較的安めだが新車である。可愛い弟達の為なら暁美は本当に出し惜しみしないのだ。して、諸々の説明を受け、今まで写真でしか見ていなかった自分達の車に乗り込み、ディーラーの人達に見送られ、まずガソリンを入れに来た冬未と隼瀬。 ちなみに暁美は今回、ずっと二人の車の後ろを付いてきてくれる事となっていた。



「納車されて初めてガソリン入れる時ってテンション上がっど?」



「うん、お姉ちゃんも初めての車はそうだった?」



「(冬未ちゃん、漢字戻っとる)そらそうよ、私の時はばあちゃんが就職祝いで買ってくれた中古の軽だったばってん、それでもやっぱ自分の車ってテンション上がったねえ」



「そういうもんかあ」



心底嬉しそうな冬未に、暁美もよかったと微笑む。で、ガソリンも満タン入ったところでせっかくだしどっか寄って帰ろうと言う事になり、その目的地へ向かう。



熊本市 某ラーメン屋



ここは隼瀬、冬未の小さい頃からの行きつけの店で、暁美が社会人になってからも何度も3人で来ている所である。メインのラーメンは豚骨スープにマー油がかかったThe熊本ラーメンという感じではなく、店自体が玉名の有名店の傍系でやはりスープも久留米や玉名の白濁したそれに近い。そして暁美はラーメン、冬未と隼瀬はラーメン大盛りをそれぞれ頼む。



「冬未ちゃんも隼瀬もそぎゃんとで足りるね?」



「うん、ここのラーメンは結構満足感あるしね、姉ちゃんこそ並で足りると?」



「本当よね、お姉ちゃん餃子とか頼めばよかったて」



「あんた達10代の食欲とは違うけんこっで充分たい」



「「へー」」



信じられんという顔で姉の顔を見る夫婦である。ちなみにその弟夫婦はよっぽど空腹だったのか猛烈な勢いで大盛りラーメンを食べ進めており、改めて暁美は10代の食欲半端ねえとか思った。



「「ぷはっ、美味しかった!」」



二人同時に丼をすっからかんにしてごちそうさまする、双子のように息ぴったりな夫婦である。



「二人とも本当に足った?」



「「うん!」」



「よかった、じゃあ帰ろか」



伝票を持って会計に行こうとする暁美を隼瀬が引き止める。



「あ、姉ちゃんここは僕達が出すばん。結局ガソリン代まで出してもろたし」



「なん隼瀬、よかよか」



「よかて、いつも姉ちゃんには助けてもろとるし、さっきも言うたごつ今日だってガソリン代まで出してくれとっとだけん、これくらいはせにゃんたい」



隼瀬の言葉にウンウンと頷く冬未。彼女としてもこうやって少しずつでも姉への恩返しをしたいという思いがあった。で、やいのやいの押し問答を繰り返す前にスっと会計を済ます隼瀬。



「ありがとね、隼瀬、冬未ちゃん」



「ううん、隼瀬はお姉ちゃんの実の弟だけんあればってん、私もお姉ちゃんにはこんなもんじゃ返しきれんだけの恩があるけん」



暁美も別に恩を与えたつもりはなく、ただ弟と妹の為に今まで色々と面倒を見てきただけであったが、それを冬未も隼瀬も自然と糧にして成長してくれていて胸に来るものがある暁美であった。
























































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