姉の心遣い



今更ながら、これジャンルは普通に恋愛でよかったかなと思う筆者である。で、そんなことは今どうでもいいので本編に入ろう。クリスマスのお泊まりデート旅行から数日、冬未と隼瀬は冬未の実家に帰省していた。



「隼瀬ちゃんごめんねえ、何でんしてもろて」



「こんくらい当たり前よ」



「ばってん隼瀬ちゃんの事もお義父さん達大事に思っとるけん」



亮にしても春美にしても、正式な冬未との婚約前から隼瀬には我が子のように愛情を注いでくれている。だがそれに甘えてはいけないと隼瀬も思っているわけで、ここにいる間はできる事はなんでもしているわけである。そして、小さい頃から隼瀬を知っているからこそ、彼のそんな性格もよく分かり、変に気を使いすぎてないかと亮は心配しているのだ。



「ありがとう、ばってん大丈夫よ」



「隼瀬ちゃんの大丈夫は信用したらいかんて事になっとるけんね。ほら、ちょうど冬未も構ってもらえんで拗ねとるけん、二人でゆっくりしとってよかよ」



「ばってん・・・」



「よかよか、たまには甘えんね」



「じゃあお言葉に甘えて、ありがとう」



「よし」



というわけで家事を亮に任せ、冬未と部屋で二人くつろぐ隼瀬。



「隼瀬は本当なんでんしようとしすぎ」



「ばってん義実家に来とっとだけん、婿として色々働くのは当たり前たい」



「まだ正式に籍入れたわけじゃなかつに気にせんちゃよかたい。それに実際結婚した後でうちん親が隼瀬にそぎゃん婿いびりとかするごつ(ような事が)あったら私が怒るばい。だけん隼瀬も変に気使わんでよか」



そう言って隼瀬の頭をポンポンする冬未。隼瀬もこれ以来変に気苦労せず、小さい頃のように義両親となる人達と付き合っていくようになった。



元日



隼瀬の実家の方に冬未の両親もお邪魔して、賑やかな正月となっていた。



「はい冬未ちゃん、お年玉」



「ありがとうございます、お義父様!お義母様!」



こちらに引っ越してきた幼稚園の時から毎年、孔と美香からお年玉を貰ってはいるが、隼瀬との婚約後は初めてで、えぐいくらい頭を下げて媚びる冬未である。ちなみに隼瀬も亮と春美からお年玉を貰っているが、そんなに媚びる事はしていない。して、親達がお酒を飲み始める中、冬未と隼瀬は暁美の部屋に行き、期待の眼差しで姉を見つめる。



「あんた達二人で生活するようなって、節約しよるのは知っとるばってん・・・・・・ばってんまだ高校生だけんね、こんだけね」



という割にはポチ袋二つともなぜか厚みがあって、姉の心遣いを感じ深々と頭を下げる二人である。



「色々あったばってん、やっぱ姉ちゃんは姉ちゃんね」



「お義姉ちゃん、中見ていい?」



「冬未!」



「相変わらずね、冬未ちゃん(おねえちゃんの漢字は変わったばってん)。まあよかたい」



「もう、姉ちゃんは冬未に甘いんだけん」



と言いつつ自分もやはり気になるので、冬未と同時にその厚いポチ袋を開ける。



「この額は逆に怖いって」



「まあ、万一の時に使いなっせ」



「お義姉ちゃん、まちっと自分にお金使わんね。よか男とかおらんとね」



「まあ、おらんこたなかばってんねえ」



その姉の発言に興味津々な弟妹である。特に隼瀬は今までの件もあり、やっと姉にいい相手が現れたのかとホッとしていた。



「へー、会社ん人?」



「んね、ばってん近くの人かな。ちょっと隼瀬に似とるかも」



「え?」



「容姿とかじゃなくて、なんか雰囲気がね」



照れくさそうに話す暁美に、かつての弟への禁忌の感情はなく、本当によかったよかったと顔を見合わせる冬未と隼瀬であった。





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