相談



タオルが飛んできたと思しき方角を見て、聞こえてくる声から、はぁとため息が零れる隼瀬。



「・・・・・・いいんちょ?充希?何しよっと?」



「おお充希ちゃんだ、久しぶりやん。いいんちょ?あ、彼女が噂の四高の聖女?!」



 咲良の噂は、白梅でも有名のようである。



「冬未ちゃん、僕の事覚えとってくれてありがとう」



「お、白梅の生徒さんにまで私の雷名が轟いとるとは光栄ばい」



 なお、隼瀬から話を聞いた冬未が恵美に話し、恵美が他の友逹に話し、更にその友達がクラスメートに話し・・・・・・といった感じで、いつの間にやら噂が独り歩きしているだけで、その原因は主に隼瀬にあるのだが、そんなこととは露知らぬ咲良は一人、尋常じゃない程に喜んでいる為、冬未も隼瀬もそっとしておく事に決めた。



「はじめまして、四高の聖母さん」



「咲良よ、三森咲良。初めまして、葛西冬未さん」



「お、私の名前ご存知で・・・?」



「えぇ、隼瀬ちゃんからよく話聞かされとるけん」



「隼瀬、ほんなこつや?!私ん事、変なごつ話しとらんどね?!」



「変なごつてなんね・・・・・・それ言うたら、冬未も恵美ちゃんとかに僕の事変なごつ話しとらんよね?」



 初対面で『実在したんだ!』とか言われたので、少し冬未を訝しむ隼瀬。



「別に、あんたがどぎゃしこ可愛いかとかしか話しとらんし!」



「そんなら僕も、冬未がどぎゃしこキュンとさせてくるかとかしか話しとらんもん!」



「もう、あんた可愛すぎるばい!」



「冬未こそむしゃんよすぎたい!」



 隼瀬と冬未がナチュラルに痴話喧嘩を始める為、その光景を見ていた充希と咲良が、忌憚のない意見を述べる。



「バカップルだ」



「バカップルね」



 同時に見せつけやがって・・・・・・と、この場にいる非リア充の客全員が思った。と、充希と咲良はやはりあの時の事を冬未に聞く。



「で、隼瀬に告白されて、冬未くんななんて答えたと?」



「約束でしょ?・・・・・・って」



「約束・・・・・・?あぁ、隼瀬ちゃんが言いよった幼稚園の時の・・・・・・」



「あの頃の隼瀬、本当可愛かった。まあ、今も可愛いばってん」



「冬未///」



 そう言って、隼瀬の頭をわしゃわしゃと撫でる冬未を見て、咲良は少しうらやましくなり、隣の充希の頭を撫でようとする。



「何で?!」



「ちょっと一回撫でさせてよ」



「一回だけね」



「「撫でさすんかい!」」



 思わずツッコミを入れるバカップル。バカップル言うな。咲良に撫でられる充希はどこか照れくさそうにしながらも、咲良のやさしい手の感触が気に入ったようだ。女性陣がひとしきり男性陣を撫でまくった後、冬未はトイレに行くと告げて、咲良を連れて行く。



「葛西さん?どうしたと?」



「ごめんね、いきなり・・・・・・初対面ばってん、隼瀬から貴方はいい人って聞いとるけん・・・・・・実はね、貴方・・・咲良に頼みたい事のあっとたい」



「頼みたい事?」



「うん。あんね、隼瀬の事なんばってん・・・・・・」



 そりゃそうでしょうねという言葉を呑み込み、あくまで真剣に相談に乗ろうとする咲良に、冬未も信頼して話す。



「あのね、私達、親達も公認の許嫁みたいな感じで、周りも結構応援してくれとっとばってん・・・・・・一人だけね、私達の邪魔する人がおっとたい」



「そうね」



「うんそれでね、その人っていうとがね・・・・・・」



 ここで冬未の表情からある程度、何かを察した咲良は、隼瀬に聞こえていない事を確認して、冬未の言葉の先を代弁する。



「お姉さん・・・・・・ね。隼瀬ちゃんの話聞く限り、やっぱおかしかもんね」



 それは厄介ね・・・・・・・・・と、充希と話し込んでいる隼瀬の無邪気な笑顔を、複雑な気持ちでちらっと見る咲良。



「うん。何より隼瀬がそれに気付いとらんけん余計怖いとたいね」



「隼瀬ちゃん、男の子にしてはそぎゃんと鈍いもんね」



「幼馴染と実の姉が自分を巡ってなんて知ったら、あの子・・・・・・」



 冬未と暁美が、自分を巡って・・・・・・それを知った隼瀬は思い悩んで、一人で全部抱え込んで、結果的に、一番近い人間である自分と姉が彼を追い詰めてしまうかも知れない。それが一番怖い冬未は、どうにか隼瀬にこのまま、暁美の気持ちを知らせずに、彼女に隼瀬の事を諦めさせようとしていた。

 だが、学校が違う自分はずっと一緒に居れるわけではない。そこで充希を使う方法を考えたが、彼は分け隔てなく優しすぎる性格。それに暁美の事もよく知っており、微妙な人選・・・・・・そこで、言ってしまえば、隼瀬から話を聞く以外は『何も知らない』人間である咲良に白羽の矢が立ったのである。



「で、葛西さ・・・冬未。私は何すれば?」



 一瞬、葛西さんと呼びかけて、先程、冬未が名前で呼んでくれたのを思い出し、自らも名前で呼ぶ咲良。



「そうね・・・・・・」



「考えてないと?!」



 そもそも、冬未も隼瀬もこれが初恋であり、そんな駆け引きなどした事がなく、何をすればいいか分からないのだ。



「まあよか。何かあったら、冬未に連絡すればよかね」



「うん。ありがとう、咲良」



「いえいえ。あんま長いと男子達怪しむけん、そろそろ戻ろうか」



「そうね」



 一先ず連絡先を交換し、隼瀬達の元へ戻る二人である。




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