第二章

セッツですね




 四高二年F組 教室



「まじか・・・・・・」



 机の上の夏休みの課題・・・・・・プリントの山を見てごちる隼瀬。そこへ充希と咲良が声をかける。



「隼瀬、しれっと頭よかけんがら大丈夫どだい」



「そうねえ。噂ん彼女とデートとかでここ最近サボっとる影響の出らんとよかばってん。女で男ん子な変わるってよう言うし」



「そぎゃんとじゃなかよいいんちょ、あれは冬未が強引に・・・ってか、そぎゃんた1,2回だけたい」



「そのこまーか積み重ねの後にどぎゃんなっかね。隼瀬ちゃんせっかく内申もよかっだし、彼女にもその辺言うといてはいよ」



「ま、まあ、確かに」



 咲良の言うことは妙に重みがあり、隼瀬も納得する。



「そういや隼瀬、今日もこれから冬未くんとデートだろ?」



「あれ?充希ちゃん、隼瀬ちゃんの彼女ん事知っとっと?」



「うん、中学な一緒だったけんね」



「ほほう。ねえ、どぎゃん感じん人?」



「うん・・・・・・簡単に言えば、隼瀬の事好き好きオーラ出しまくって、皆から若干引かれとったかな」



「え?そぎゃんオーラ、冬未出しとった?」



 隼瀬の素っ頓狂な反応に、こいつまじか・・・・・・と、信じ難いものを見る目を向ける充希と咲良。



「私、男ん子ってそぎゃんと敏感なイメージだったばってん、例外もおるとね」



「あれ、なんか僕おかしか事言うた?」



「まあ、隼瀬の場合、周りに殆ど女子しかおらんかったけんねえ」



 充希の記憶では、ふと隼瀬を見かけると大体冬未や、他の女子たちといた記憶しかなく、それじゃあ仕方ないと、そんな話を聞いた咲良もあー・・・・・・と、納得する。



「なんか二人とも、すっげえ頷いてる・・・・・・」



 すっげえ頷きながら冬未とのデートに向かう隼瀬を見送る二人は、隼瀬が小さい頃に見たダンシングサンタの人形を彷彿とさせる。そんなダンシングサンタ達に見送られ、校門前で待つ冬未の元へかけていく隼瀬。



「冬未、おまたせ!」



「遅い!暑か中ずっと待っとったっだけん!」



 と言いながら、隼瀬をこれでもかと抱擁する冬未に、周りで見ていた四高生達は全員、『余計暑なるわ!』と心の中でツッコミを入れる。



「てか、こぎゃんとこで待っとかんだっちゃ(なくても)、そこの喫茶店入っとけばよかったて」



「あ」



 もう隼瀬とのデートしか頭になかった浮かれポンチの冬未は、四高の目と鼻の先にある店も目に入らないほど浮かれていたようだ。というわけで、汗だくの冬未を見てたまらなくなった隼瀬の計らいで、二人は一先ず喫茶店に入る。



「あー涼しかー」



「もう、冬未、汗じゅっく(びっしょり)になって・・・・・・」



「隼瀬もたい」



「教室にクーラー付いとっとに先生使わせてくれんもん」



 四高の教室には空調設備が一応あるのだが、その電源は職員室が握っており、生徒たちが勝手につけたり消したりはできない仕様となっている。嘗ては教室に電源が備え付けられていたものの、一部の生徒の悪戯によりシステムに異常を来した事があり、それ以来、生徒が勝手に操作できないようになっているのだ。



「そうつたい(なんだ)。あ、隼瀬なんか飲む?」



「あ、僕ミルクセーキ。それとケーキセット」



「あんた本当甘い物好きよねえ、女子が想像する男の子そんままって感じで可愛い」



「今日な体育の持久走で疲れたけん糖分取らんとしゃが。冬未は?」



「私アイスコーヒーだけでよか」



「おぉ、大人だ」



「あんたが子ども舌なだけたい。それとも男ん子って皆そぎゃんもん?」



 そう言って、冬未が店員を呼びつけ、注文する。



「いらっしゃいませこんにちは、いらっしゃいませこんにちは、いらっしゃいませこんにちは~!」



「「大手の古本屋か!」」



「ご注文お伺い致します。ミルクセーキとケーキ千個。アイスコーヒーおひとつでよろしいでしょうか?」



「まだ言うとらんぞ?!」



「てか千個てなんや?!」



「それではお客様、五時間少々頂きますがよろしいですか?」



「五時間?!待てるか!」



「だってお客様!ケーキ千個となったら大変・・・・・・」



「セット!僕が頼んだつなセット!」



「あぁ、セッツですね」



「なんそれ?!何その発音のこだわり?!」



 面白い店員さんに、隼瀬も冬未もツッコミが止まらない。



「それでは厨房の方振り返りまーす」



「「注文繰り返さんや!」」



 息ぴったりにツッコむ二人に『凄い仲いいカップルだなリア充爆発しろよ』とか想いながら、面白い店員さんが、今度こそちゃんと注文を繰り返す。

 


「ミルクセーキとケーキセッツ。アイコ17歳でよろしいでしょうか?」

 


 全然ちゃんとしてなかった。



「誰やアイコ?!」



「面白そうね。ちょっと待ってみろか(ようか)!」



 そんな漫才を何回か繰り返し、漸く注文を終える二人。



「あー、変な人もおるもんよな」



「何かツッコミまくったら、また汗かいてきた」



「私も・・・・・・」



 面白い店員さんに振り回され疲れた顔をする二人がそんな会話をしていると、突如として二人のテーブルの上にタオルが飛んでくる。



「隼瀬、あんた気の利くね」



「いや、明らかにどっかから飛んできたたい」



「いやいや、突然タオルが飛んでくるとかありばすっごて(ありえんだろ)」



「確かに」



 もう自分が出した事にしておこうかと思う隼瀬だが、タオルの飛んできたと思しき方向から何やら声が聞こえ、視線を転じる。

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