似たもの同士
「ちょ、冬未?」
「何もせんよ。ただ一緒に横になるだけたい」
と言いつつ、普通にベッドの上で横になる隼瀬に乗ってくるので、隼瀬は自分の貞操に別れを告げる決意を固めた。
「ぼ、僕は別に冬未となら、いいよ?」
「隼瀬・・・・・・ばってんこれ純粋な作品にしたいけんね」
作品・・・・・・?と、変な事を言い出す冬未に、隼瀬が変な顔をする。なお、隼瀬の両親の計らいという名の謀略で、冬未は今晩ここに泊まる事となっており、隼瀬の貞操はもう無きに等しい。と、また暁美が部屋を覗きにやってくる。
「冬未ちゃん、お風呂入る?」
「隼瀬と一緒に?」
お風呂という単語を聞いただけで、隼瀬とのいちゃらぶ入浴シーンを妄想して、入浴前からのぼせる冬未。
「だ、だめよ!そういうのまだお姉ちゃん早いと思う!」
どっかのダダ甘お姉ちゃんが言いそうな台詞だ。これはパクリではなくオマージュです。
「えー」
露骨にがっかりする冬未と、あんな事言ったもののやはりちょっと怖かったので一先ずは安心する隼瀬。
「冬未ちゃんは私と一緒入ろっか、ね」
「ふぁーい・・・・・・」
明らかに不貞腐れて暁美とお風呂に行く冬未の後ろ姿を隼瀬は見送って、少しうとうとと船を漕ぎ始める。一方、冬未は・・・・・・
「もう!何で高校生にもなってお姉ちゃんとお風呂なんか!」
まだ隼瀬といちゃらぶ入浴できない事を憤っていた。
「まあまあ、女同士裸の付き合いたい」
「もう・・・・・・」
ぶつくさ言いながらもなんだかんだ服を脱ぎ、暁美と一緒にお風呂場に入る冬未。
浴槽に浸かり、髪を洗う暁美を冬未が眺める。
「お姉ちゃん、背中流そうか?」
「お!私が何も言わずとも、義姉の背中を流すとはできた子だ」
「そぎゃんとじゃなかたい」
「ふふ、いやあ本当あんた達も大人になったね」
「そぎゃんかな」
「そうたい」
「お姉ちゃんはずっと一番近くで見てくれとったもんね」
「あんたが隼瀬に危にゃあ事させたりするけんたい」
「その節はどうも・・・・・・」と言ってはにかむ冬未が、暁美にとっては実の妹のように可愛く思えて頭を撫で、冬未はくすぐったそうに微笑む。が、今は姉妹としてより、隼瀬を好きな者同士、肝心な事を話そうと冬未は決めていた。
「ねえ、お姉ちゃん。隼瀬の事、好きとだろ?」
「え、いつから・・・・・・?」
「私達が成長するにつれてね、お姉ちゃんの隼瀬ば見る目が姉としてのそれじゃなくなりよったけん」
「そっか・・・こまか時から、あんたもずっと私の傍におったけんね」
「当の本人はいっちょん(全然)気付いとらんごたばってんね・・・・・・」
聡明な隼瀬でも、そういう色恋沙汰には余り聡くはないようで、彼にとって暁美は、ただのちょっと過保護なお姉ちゃんとしか思っていない。
「冬未ちゃん、私、諦めんけんね」
「・・・・・・ふふ。お姉ちゃん、意外ともっこす(頑固)ね」
「あんたよりあの子〈隼瀬〉とおる時間は長いけんね」
「お姉ちゃんの知らん隼瀬の顔も、私は知っとるよ」
冬未は少しムキになって言い返す。過ごした時間の長さは、生まれた時からずっと一緒の暁美には敵わないと分かっているから、そんな暁美より強い想いで持って、隼瀬を奪い取るしかないと彼女は痛感しているのだ。
「あんたも強情ね」
「当たり前たい。だいたいお姉ちゃん、実の弟ば好きになるなんて・・・・・・」
「ばってんしょんなかたい。法律で結婚できんでも、私はあの子が好き」
「そう・・・・・・ね。じゃあ、遠慮なく隼瀬は私が貰うけんね」
「じゃあ、私も遠慮なくあんたの邪魔できるね」
あんた達とは言わない暁美の台詞に本気度を感じて、更にムッとする冬未。
「隼瀬はあの子から、私にお婿さんにしてくれって言うてくれたんだけんね」
「別に、あんたがあの子ば婿に取ったけんて、私はずっと追いかける」
「しつこいね」
「私はあの子に一生捧げるつもりだけんね」
「お義母さんが聞いたら泣くね」
「一番嫌なのはあの子の涙よ」
「そぎゃんと私も一緒たい」
そこに関しては、意見が一致する二人。まあ、似たもの同士なのでそこ以外も結構一致している。
「冬未ちゃん、隼瀬ば泣かしたりしたら絶対許さんけんね」
「私も、お姉ちゃんが隼瀬ば泣かしたらうたくっけん(ぶっとばすから)ね」
でも、絶対にそんな事はないだろうと、互いに長年の付き合いで分かる。だから、隼瀬が泣いていたらそっと抱きしめてあげようと、心に誓う二人であった。
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