なりましてございまして候



 物語中の時間がなかなか進まない問題


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 家に上がりしばし落ち着いた後、冬未と隼瀬は、孔に交際の報告をする。その反応を恐る恐る見守っていた暁美だが・・・・・・



「え、なんね、まだ付き合っとらんかったと?」



 余りにも意外すぎる反応で、冬未も隼瀬も、盗み聴きしていた暁美も綺麗にずっこける。



「そっかぁやっとくっついたかぁ。冬未ちゃん、隼瀬の事よろしくね。この子には、冬未ちゃんみたいなタイプが一番よかち思う」



「おじさん・・・・・・」



「お義父さんって呼んでみて」



「お義父さん」



「おぉ・・・一回、呼ばれてみたかったとよねえ。そっかぁ、暁美より隼瀬が先かぁ」



 こんなんで大丈夫なんだろうかと、冬未は一抹の不安を隠しきれない。と、さっきずっこけて膝を強打した暁美がなんとか立ち直り、話に入ってくる。



「お父さん!私の事はよかたい!」



「そういや、僕も姉ちゃんがどぎゃん人貰うんか気になるなあ」



「私も私も!」



「あんた達ね・・・・・・」



「暁美、今彼氏おらんと?」



 しかし、この父親フランクすぎる。フランク斎藤である。



「おったら、とっくに家出てます!」



 年齢の割に高給取りな暁美がお金を使うのは殆どが隼瀬と冬未絡みで、更に実家暮らしな為、貯金額は毎月増加し続けている。今すぐ結婚して、式を挙げてハネムーン欧州満喫でもまだ少し余るほどだ。恐ろしい。



「そうね・・・まあ、二人もいきなりお姉ちゃんがおらんくなったら困るもんね」



「い・・・・・・あー、うん」



 いや、別にって言おうとしたな・・・と、隼瀬の顔を見る冬未。



「あんた達は私がおらなダメなんだけん、まったく」



 そう言って二人の頭をくしゃくしゃに撫でる暁美。



『絶対自分に言い聞かせたよな・・・・・・』と、この場にいる全員にバレバレである。と、そこへこの家の主、隼瀬や暁美の母である美香が帰ってくる。



「ただいまー!あら、冬未ちゃん久しぶり!」



「お邪魔してまーす!」



「相変わらず元気ね」



「おかげさまで!おかげサマーでなんつって、はははは・・・・・」



 隼瀬との交際の事を報告しようと緊張するあまり、返答がおかしくなる冬未。



「ちょうど涼しなったね・・・」



「は、はあ・・・おば様、あのですね・・・・・・」



「おば様?!」



 吹き出しそうになるのを必死にこらえる斎藤家の一族。なお、葛西家の一族である冬未はあくまで真剣に話している。



「ふぅ・・・おば様、隼瀬・・・ちゃんと、結婚を前提にお付き合いをさせて頂く事になりましてございまして候」



「なりましてございまして候ね・・・・・・」



 既に、美香除く斉藤家の一族は辛抱堪らず何かを盛大に吹き出す。

 何かの正体は、主に麦茶。美香は、堪えつつ口の端から何か垂れ流しながら冬未に向けて、言葉を紡ぐ。斉藤家の一族全員我慢できなかったみたい。



「んふ・・・ま、まあやっと・・・って感じね。で、告白はどっちから?」



「隼瀬が『卒業したらお婿さんにしてください!』って!」



「あ、あぁ・・・そう・・・・・・(隼瀬が?!)」



 自分の知らなかった我が子の一面に戸惑う美香。



「ま、まあでも、隼瀬が中学の時、毎回違う女の子が隼瀬ば送ってきて心配しよったばってん、あんた達がちゃんとくっついてくれてよかった・・・・・・」



 実態とすれば、二人を許嫁として、なんとかくっつけようと暁美まで使って根回ししていた親たちの苦労が、漸く実ったとも言える。



「おば・・・お義母さん」



「お義母さんと呼ばれる筋合いはない!って言うたがよか?」



「いや、お父さんなんか、自分からお義父さんって呼ばせて悦に浸っとったし・・・・・・」



「冬未ちゃんはもう昔から家の娘みたいなもんだしね・・・・・・」



 斎藤家の一族が全員うんうんと頷く。別に○○家の一族って表現が気に入ったわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。そして、冬未と隼瀬の交際報告から数分後・・・・・・隼瀬の部屋で冬未は隼瀬を固めるように抱きしめて撫で回しており、それを見た暁美が顔を引きつらせる。



「冬未ちゃん、隼瀬苦しそうよ・・・・・・」



「この子はもう私んとだけんね!こぎゃんして守ってやらんと!」



「いや、冬未・・・守ってやるってそういうのね?!」



 そう言って、何とか冬未の物理的な束縛から逃れようとする隼瀬。



「何で逃ぐっとや!」



 冬未も負けじと、秘技‘逃がすかホールド’で隼瀬の体をがっちり固めてきて、その体の感触に隼瀬は妙に悶々としっぱなしである。なお、逃がすかホールドは冬未が小さい頃、暁美が悪戯する冬未を懲らしめる為編み出した技であり、冬未の秘技でもなんでもなかった。



「姉ちゃんもおっとだけん」



「何恥ずかしがっとっとね。お姉ちゃんだけん別によかたい」



「冬未ちゃん、それどぎゃん意味かな・・・・・・?」



 暁美の隼瀬への想いに気づく冬未は、こういう姿を見せつけて牽制しておくべきと判断したのである。暁美の事が嫌いなわけではない。だが、隼瀬の事に関して言えば、恋敵である事に変わりはなく、隼瀬はもう冬未のもの、と印象付けさせる必要があると結論を出す。



「冬未・・・さっきから胸が・・・・・・」



「当てとっとよ」



 この世界における女の性欲というのは、隼瀬が元いた世界の男の比ではない。そして、元の世界でもそういう事に免疫がなく、既に今日一日でなぜかだいぶこちらに染まっている隼瀬にとって、それはもう恐怖だ。



「当て・・・・・・もう!」



「ベッド行く?」



 性欲むき出しに発言する冬未を、暁美が嗜める。



「ちょ!ちょっと待て!あんた、私がおる前で・・・・・・これそういう小説じゃないけんね!」



「姉ちゃんメタい!」



「なんね。私はベッド行くって言うただけで、お姉ちゃんの考えとるような事はなかっだけん」



「わ、私の考えとる事ってなんね・・・そ、そぎゃん、いやらしか!」



「お姉ちゃんのがいやらしかたい」



「も、もう!隼瀬に変な事したらダメよ!」



 そして、冬未は暁美が出て行って間もなく、ナチュラルに隼瀬をお婿さん抱っこでベッドに運ぶ。

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