私が
「お婿さんにしてください!」
隼瀬のその言葉に冬未は吃驚した。まさか隼瀬の方からそんな事を言ってくるとは思いもしなかった。自分は彼にとって、ただの幼馴染で双子の兄妹のようなものとしか思われていないのではないかと、そんな風に考えていたからだ。
普通はあんな小さい頃の約束なんか覚えていないはずだ、と・・・・・・でも隼瀬は忘れていなかった。そのことが冬未は何よりも嬉しく思えて、絶対に隼瀬を幸せにするぞと、あの5歳の自分自身へ誓って、隼瀬と手を繋いで電車に乗る。
その電車内で二人は、仕事を終えて帰宅途中の暁美とばったり会う。
「あら、今日は二人一緒?」
「あ、姉ちゃん。あんね・・・・・・」
男の子らしくもじもじと何かを伝えようとする隼瀬の手元を見る暁美。
「あら・・・」
「うん・・・そういう事だけん」
弟の言うそういう事がどういう事かは、暁美には言わずとも分かる。分かってしまう。
「やっと・・・ね。おめでとう」
姉として、可愛い弟たちの恋路が実ったのを、素直に祝福する暁美。そう、あくまで姉としては。その実、内心は複雑だ。
(この二人がくっついてくれるのは姉として嬉しい。ばってん・・・・・・姉弟だけん当たり前ばってん、私の方が冬未ちゃんより隼瀬の事・・・・・・あぁ、何でこんなに胸が苦しかっちゃろ・・・・・・ダメなお姉ちゃんね、ねぇ隼瀬・・・・・・・・)
「お姉ちゃん、これからは私が隼瀬ば守ってくけんね。任せて!」
私がの部分をわざと強調する冬未。彼女も全て分かっているのだ。
「・・・・・・そ、そうね。頼むね、冬未ちゃん」
あくまで、二人の事を応援してやろうと誓う暁美。今のところはという枕詞がつきそうではあったが。
「あ、冬未ちゃん。久しぶりに家寄ってく?」
「急に大丈夫?」
「なーん、あんたは家ん子みたいなもんたい」
その暁美の言葉にうんうんと頷く隼瀬。
「ま、まあ結婚前提の交際だけん挨拶もしとかにゃんしね」
「まあ、どっちの親も同じ反応しそうばってん」
「そういや、冬未の家ってそぎゃん行った事なかね・・・いつも家に冬未が来とったけん」
「うちは共働きだけん、結構家に一人とかだったけんね」
それなりの小金持ちな家庭である斎藤家に比べて、葛西家はそれなりに貧しい家庭であり、夫婦共に稼いで冬未をなんとか食べさせていた為、帰りが遅いときなどは斎藤家に冬未を預けることが多くあった。冬未本人としては、隼瀬の父はよくしてくれるし、暁美や隼瀬と遊べるので、甘えたい盛に親がいなくてもそれほど寂しさを感じずに済んでいた。そんな思い出話に花を咲かせて、三人は電車を降り、家路へ急ぐ。もう、外は完全に日が落ちて真っ暗だ。
冬未と隼瀬が手をつなぎ、その後ろを見守るように暁美が歩く。と、暁美が一つ気になった事を二人に尋ねる。
「ねえ、あんた達どっちから告白したと?」
「隼瀬たい。皆見よる前で『卒業したらお婿さんにしてください!』て」
隼瀬が答えるよりも早く、冬未が即答する。
「ほー・・・我が弟ながら大胆な・・・・・・で、冬未ちゃんはなんて答えたと?」
「約束でしょ?って」
「約束・・・?あー!ばってんあれあんた達まだ幼稚園の時たい!よう覚えとったね!」
「姉ちゃんが覚えとる方が不思議ばん」
そういやこの人、僕の事はなんでも覚えてるよなあ・・・・・・と、そんな姉が若干怖くなってきた隼瀬。そうこう言いながら歩いている内、三人は暁美と隼瀬の家へと着き、インターホンを押す。
すると、呼び鈴の音に素早く反応した暁美と隼瀬の父、
「おかえりー・・・おぉ、冬未ちゃん久しぶりね!」
「ご無沙汰してます」
「またおおきなって・・・そぎゃんかしこまらんでよかよ。いつもんごた感じで」
「・・・うん!おじさん、久しぶり!」
この子はあまり変わらんな・・・・・・と、孔は娘のように可愛がってきた少女を見つめる。まあ、実際近い将来義理の娘になるわけだが、それを冬未は告げる為ここに来ているという事はまだ知らないでいた。
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