こぎゃん大きかったっけ




「てか本当、私からしたら隼瀬のが心配ばん。中学ん時もあんた、周りに女ばっかで・・・・・・姉ちゃんとべったりだったけんか女子に対する警戒心がいっちょん足らんもん」



「まあ、それは・・・・・・」



 思い返せば、何も否定できない隼瀬。元の世界でも状況は同じだったのだ。



「ばってん、これからは私が守ってやるけん安心しろよ」



 隼瀬を守る役目は、ずっと暁美が担ってきたが、ようやく世代交代の時が来たようである。



「冬未も、何かあったら僕が守るけんね」



「お、あぎゃんか弱い男の子だったはあたんが立派になって」



「そのあだ名やめてよ、もう高校生なんだけん」



「えー、可愛いかたい。はあたんも昔みたいに私ん事、ふうたんって呼んでみ?」



「ふ、ふうたん・・・・・・恥ずかしいよ」



『聞いてるこっちが恥ずかしいわ』と、恵美は思った。



「相変わらず可愛いんだけん・・・・・・てか本当に今朝は大丈夫だったつや?」



 甘い雰囲気からやっと我に返った冬未が、そういえば・・・・・・と、今朝のおかしな隼瀬の事を話す。



(冬未も見とったつか。んー、どう言えばいいかな。変に嘘ついても、冬未にはバレそうだしなあ・・・・・・まあ、恵美ちゃんにも話しとった方が、後々楽かもな)



 何故か心の中では共通語気味で暫く逡巡して、隼瀬は自身に起こった出来事を冬未には話しておこうと決心する。二人のよき相談役になりそうな予感のある恵美にも。



 「・・・・・・・・・・というわけ」



 隼瀬は、今の自分の魂が恐らくこの世界で育った隼瀬のそれではないこと、元いた世界とこちらの世界の違い、そして、彼のその聡明さで導き出した一つの仮設の事を話す。



平行パラレル世界ワールド・・・・・・?」



「うん。だってなんもかんも違う世界なら、鏡になっとる以外、僕の記憶が殆ど同じになるとか、家族の顔も一緒とか冬未も充希もそんままおるとかそぎゃんとありえんたい。まあ、僕がおかしくなった可能性の方が十分にありえるばってんね」



「まあ何にせよ、あんたが元気なら私はそっで十分よ」



「冬未はそうよね。隼瀬ちゃん、大事にされとんね」



「冬未・・・恵美ちゃん・・・」



「ほら、隼瀬。帰ろうか、茜色に染まる道を」



「何言いよっとね冬未」



 周囲を見渡すと、あれだけいた観衆の少女達も既に帰ってしまって、微かに西の空が赤らみ始めていた。



「じゃあ私は逆方向だけん、冬未、隼瀬ちゃんも、またね」



 恵美が二人に気を使ってか、そそくさと手を振って走り去っていき、久しぶりに二人きりで、夕焼けに染められ歩く二人。



「中学まではこぎゃんしていつも二人で帰りよったね」



「あんた、気がついたら他の女と帰ったりしよったけん、いつもじゃなかったろが」



「そうだっけ?・・・あぁ・・・・・・あれはなんか、僕ば一人で帰すと危ないけんて、皆が言い出して・・・・・・(こっちの記憶がはっきりしてきたな)」



「充希ちゃんのおるたい」



「充希も男だし(あれ、俺・・・僕・・・・・・)、あいつんち逆方向たい」



「あ、そっか」



 自分も隼瀬にくっついて何度か行っている筈だが、冬未は性欲魔人的なこの世界の年頃の女子には珍しく、男子に関しては隼瀬以外モブ程度にしか認識していないので、名前は覚えていてもそんなモブの家など記憶していなくても不思議ではない。

 ちなみに、毎回違う女の子が隼瀬を送ってくる為、暁美からは変に心配されたという。



「ねえ、冬未。手ぇつなご?」



「隼瀬・・・ほら」



 そう言って差し出された手を、隼瀬はそっと握る。彼はこの時点でもう既に、この世界の普通の男子となりつつあった。



「冬未の手、こぎゃん大きかったっけ」



 幼いころはそんな事思ったこともなかったのに、久しぶりに握るその手は大きく包み込んでくれるようで、隼瀬はギュッとその頼もしい手を握る。すると、それに気付いた冬未が呟く。



「隼瀬。私、何があってもあんたば絶対・・・・・・この手は離さんけん。これは約束」



「冬未・・・・・・(なんかキュンときたぁ)」



「だけん、あんたも手ぇ離さんで、こんな私ばってんついてきてくるんや?」



 といっても、そんなもん聞くまでもない事は冬未も重々承知している。でも、本人に直接言って欲しくて、問いかける。



「当たり前たい!僕は冬未のそぎゃんとこが好きなんだけん」



 思えば隼瀬は、昔から冬未に振り回されていた。




「ふうたん!あぶないよ!」




 出会った頃から・・・・・・




「冬未!どこまで行くと?!」




 あの時も・・・・・・




「おむこさんにしてあげる!」




 あの約束も、冬未は覚えてくれていた・・・・・・いつも振り回されながらも、隼瀬はそんな冬未が大好きなのだ。




そして今日・・・・・・






 つづく

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