#85 不幸の手紙
要するに、と翔太が切り出した。
「人間が開発をしようとすると魔物が邪魔してきて、魔物を殺しすぎると悪鬼像が動き出して危険だから開発ができないんすよね。悪鬼像ってそんな危険なんすか。動き出すと魔物が活発になるんすよね? そんなら魔物全滅さしたほうが早くないすか」
「悪鬼像はそれ単体で危険なんだよ。地上に出てきたら巨大化して人も建物も轢いて壊してしまうんだ」
そんな話初めて聞いた。
「タローマンでござるな……地球爆発オチ」
「タローマン?」
「なんでもないです。春臣くん、そんなのどかに芸爆しちゃだめ」
「でもいったん遠くに避難するとか」
「避難している間に魔物がまた湧いてくると思う。魔物は何もないところから生まれるからね」
難しい話だ。やはり女神さまに許しを乞うしかないのだろうな、としょんぼりする。
「要するに喧嘩別れした女神さまと悪鬼を和解させればいいんでござるな?」
「なるほどそういう考え方があったか」
クライヴがそう膝を打ったところで、外から夜呼びの声が聞こえてきた。解散の時間だ。
「難しいな〜!!!!」
有菜はでっかい声でそう言った。
「でも女神さまと悪鬼を和解させるっていう目的はハッキリしたじゃん。魔物の許しを乞うのと一緒に」
「でもただ喧嘩別れしただけで、地下迷宮に閉じ込められるんすかね」
「なにがあって喧嘩別れしたのか、正直よく分かんないね。次に行ったらクライヴさんに訊いてみよう」
「次かあ……そののんびりペースで間に合うのかな」
一同、とぼとぼと校舎に向かう。ジャージから制服に着替え、とぼとぼと解散した。
高校3年生の夏が終わる。
とぼとぼと帰ってきた有菜は、行方不明しているうちに出ていて、近く提出しなくてはならない課題と格闘した。だんだん眠くなってくる。
うっかり寝落ちしたとき、有菜は妙に鮮明な夢を見た。金髪碧眼の美しい女性が、目の前にすらりと立っている。
「マレビト」
その女性は有菜をそう呼んだ。太陽のように背中から光が出ている。ああ、このひとが、異世界の女神さまか。
「マレビト、あなたたちの気持ちは分かります。わたくしも民草の平穏を願っています。そして、いつか弟と和解したいとも考えています。わたくしが弟を悪鬼だと貶めたのが、喧嘩の原因なのですから」
「なら和解すればいいじゃないですか。魔物と人間が調和して生きていける世界をつくれば、それでいいじゃないですか」
「弟がビックリするほど意固地なのです」
有菜は膝カックンを食らった気持ちになった。
「弟はきっと、自分から和解したいと言い出せないのでしょう。そしてわたくしにも体面というものがあり、わたくしを崇める民にとって和解することは大革命で、簡単に誰もが賛同できることでないことも理解しているはず」
め、めんどくせえ〜!!!!
有菜はそう思った。
「あなたがたの思いは民草にも伝わるはずです。励みなさい」
「ちょ、ちょっと待って……はっ」
有菜は自分の声でビックリして起きてしまった。
励みなさいと言われても、自分たちには時間がないのですが……。有菜はそう思った。
園芸部の面々も、同じ夢を観ていたようだった。
「困ったっすね。まあ喧嘩別れの理由はなんとなく分かったっすけど」
翔太がため息をつく。
「でも励むしかないでござるぞ。あちらの世界は女神さま言うところの大革命が必要なんでござるよ」
「うん……大革命」
そんなことを言いながら草むしりをしていると、異世界に飛ばされた。
「なるほど、そんな夢を……女神さまがあちらの世界に干渉できるとは思わなかったな」
「そうなんですか?」
沙野の質問にクライヴは頷く。
「やはりあちらとこちらの繋ぎ目がゆるくなっているんだ。最初にアリナさんとサヤさんが来たときに話したとおり。……待てよ」
クライヴはなにやら書物を出してきた。
「これは教典といってね、女神さまの遣わされた予言者が書いたものなんだ。なにかあったはず。えーと」
クライヴが教典から探し出したのは、ほんの一節だった。
「女神と悪鬼が和解するとき、ふたつの世界は解き放たれる」
なにを意味しているのかハッキリとは分かっていないんだけど、とクライヴは言う。
「ふたつの世界っていうからには、あっちの世界とこっちの世界が完全に繋がってしまうということじゃないかな。この一節を教わったとき、これは天界と魔界が解き放たれる世界終末のことだ、って救貧院の先生は言っていた。悪鬼と女神が和解するのは、もっとずっと先のことだと思っていたんだけれど」
終末。ショッキングな言葉だ。
「この世界滅びちゃうってことです?!」
有菜はでっかい声で言った。
「いや。世界の仕組みが大規模に変わって、教典が力を持たなくなる、ということかもしれない。教典には『ゴブリン殺しの歌』っていう、魔物をどんどん殺して人間の世界にせよっていう教えが含まれているんだけど、そういうのが無効になるってことなんじゃないのかな」
そうか、大革命ということは世界の秩序が大規模に変わるということだ。それなら確かに、いままでの教えは滅びる、ということだろう。
有菜はしみじみと納得して、
「外堀から埋める作戦、どうなってます?」と尋ねた。
「うん、うまく行ってる。手紙が届いたら知り合いの神殿騎士や守護神官にも同じ内容で送って、ってお願いしてある」
「不幸の手紙じゃないですか!!!!」
有菜は思わず素っ頓狂な声を上げた。
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