第三部 異世界三年生

#61 三年生になりました

 春休み、園芸部一同は部室でいろいろ話しながら、新入生勧誘の作戦を立てていた。

 異世界を持ちだすのは当然禁止である。しかし有菜はできることなら翔太を勧誘したときのような手は使いたくなかった。もしかしたら翔太を無理に勧誘してしまったのでは、とちょっとだけ後悔していたからだ。

「なにかいいアイディアないかなあ」

有菜はぐいーっと伸びをした。翔太が頬の肉を揉みながら、

「やっぱ茹でピーっすよ。茹でピーの写真バーンで決定的っすよ」

 と、ずいぶんと雑なことを言う。

「茹でピーかあ……今年も落花生つくるの? たしかにあれは殺人的においしかったけど、マメ科は連作障害あるよ」

「茹でピーだけじゃなく味噌ピーもつくりましょうぞ」

「いいねー味噌ピー!」

「落花生はいいから部活勧誘の話をしようよ」

 沙野の冷静な提案に、一同サルのごとく反省した。

「やっぱり去年と同じ路線でいくしかないんじゃないの? サステナブルな世界を目指す園芸部」

「まあそれが妥当でしょうなあ」

「つかサステナブルってなんすか?」

「持続可能性……だっけ?」

「なんかそんなんだった気がする」

 有菜も沙野もテレビの園芸番組から持ちだしただけで、よくわかってないのであった。

「じゃあふつうにポスター書いて、一年生を迎える会でやるのは去年みたいにスライドでいいかな。画像ってどんなのある?」

「あっちで撮ったのは白くなっちゃうんすね」

「おお、きさらぎ駅ですな」

「きさらぎ駅?」

 去年有菜が謎だと思ったところに翔太が食いついた。春臣がすらすら説明する。

「翔太氏は知らないでござるか? 奇妙な駅で降りたら文字が読めないとか写真が真っ白とかスマホの時計が狂うとか」

「えっなんか怖いやつか?!」

 翔太がビクリとなる。春臣はこの隙を狙って小説の布教を始めた。

「まあその辺は早●書房の『裏●界ピクニック』に詳しく載ってるでござる。ラノベ感覚で読める百合SFホラーでござるよ。アニメもあるでござる」

「俺怖いの無理」

「いや翔太氏、トレントやっつけたでござろうに」

「あれは実体があるから怖くないんだ。実体のない怖いやつが無理なんだよ」

「だから部活勧誘だってば!」

 沙野がキレた。流石に脱線が過ぎた。

 とりあえず全員スマホから野菜や花の画像を供出する。これをOHPシートに焼いてもらおうということになった。

「最初は花育ててなにが楽しいかわかんなかったっすけど、やってみると面白いっすね。日曜日の園芸番組で『●●じいじ』みたいなペンネームのひとが写真のコーナーに投稿してるの分かる気がするっす」

「あのコーナーわたしも好きだよ。歳とっても厨二くさいペンネーム使っていいんだ! って思う」

「自分は園芸部に入ったら母氏や父氏にそれはいいねって言われたでござるよ。いままでずっとバスケやってたんでござるが、そんなに上手くならないわりには遠征費だなんだってお金かかってたでござるし」

「あ、そうだ! こいつ、中学のとき全県大会の決勝戦で決勝3ポイント決めてるんすよ! 聞いたときビビったっす」

「まじで?! それなのにそのキャラクター?! バスケ部ってもっと陽キャの集団だと思ってた!」

 有菜は素直にビックリしてしまった。春臣がそういうことのできるタイプだとは思えなかったからだ。

「まあ……小学校のミニバスの面々の持ち上がりでしたからな。よその小学校から来た連中も基本的に素朴だったでござるし。高校のバスケ部がウェーイ集団でビックリしたでござる」

「じゃあ……ローコストで楽しい部活、花に興味がなくてもだんだん面白くなる、って紹介しよっか。この高校の男子ってだいたいウェーイだから、園芸部に入ろうなんて奇特な人は少ないと思うんだよね」

 沙野がノートにそうメモした。

「ポスター、自分にも手伝わせてほしいでござる」

「あ、春臣くんも絵描けるんだ」

「こういう感じで絵を描いてるんでござるが、どうでござろうか」

 春臣はスケッチブックを広げた。ビッシリとリアルな虫の絵が描かれている。オタクが描く絵というよりは虫オタクの描く絵だ。

「お、おう……さか●クンならぬむしクンだ」

 有菜は表情を引き攣らせた。

「女の子キャラよりなら虫とかドラゴンとかのクリーチャーを描くのが好きでござる」

「多才だね……先生とかライトノベル作家とかより、カードゲームのイラストレーター目指したら?」沙野がやっぱり引き攣りながら言う。

「そこまで上手くはないんでござるよ。ハンコ絵でござる」

「ハンコ絵ってなんすか?」

「まあその辺はググってみればいいよ。じゃあ、春臣くんとわたしで勧誘ポスター描くね。あ、春臣くんドラゴンとか描いちゃだめだからね」

「了解でござる」

「あとはスライドに合わせて読み上げる文章……か。それは部長に任せていいかな」

「そっすね、部長なら確実っす」

「頼みましたぞ部長」

「え? 部長? あたしが?」

 有菜は挙動不審になった。もちろん園芸部が復活したのは有菜がいたからだ。しかし部長をいきなり任されたのはちょっとビックリする。

 有菜新部長を筆頭に、園芸部の3年目が始まろうとしていた。

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