#60 長老会との対決
王宮の前で、クライヴが門番に話しかける。中に通された。園芸部の面々はドキドキしてたがいの顔を見回した。
王宮と言われてさぞや美しいところだろうと思っていたが、実際はだいぶ粗末な感じだ。エケテの村の礼拝所とあまり変わらない。ただし礼拝所よりずっと大きい。
奥に進むとなにやら議場のようなところに出た。長老会の会議室だという。薄暗くて、高いところに議席があり、引き出されてきたものは一番下に立って話さねばならないようだ。
「こーゆーのアニメで観たでござる」
「その通りなんだけど緊張感ないからやめようね」
春臣と沙野が話しているのはなんのアニメのことなんだろうか。それはともかく会議が始まった。
「クライヴ。マレビトは悪ではないという理論はどこから来た思想だ?」
いちばん高いところに座っている老人が、一同にそう声をかけた。
「どこから来たもなにも、聖典のどこを読んでもマレビトが悪とは書いていませんよ」
「長老会の決定を俗信と言うのか?」
「そんなことは一言も言っておりませなんだ。ただ、聖典にない律法を定めるのは聖典への反逆です」
議場がざわつく。大丈夫なんだろうか。
「ではマレビトの代表に尋ねる。なぜ科学をこの世界に広めようと考えた?」
「この世界の食糧事情をよくしたい一心です。事実それを飲んでくださって、長老会は堆肥を作るお触れであったり連作障害を避けるお触れであったり、そういったものを出してくださったのでは?」
太嘉安先生がよどみなくそう言う。
「確かにマレビトのもたらした知識として、それらのことは審議にかけられ、広められることとなった。科学はこの国にさまざまな発見をもたらし、いまは蒸気機関の開発が始まっている」
もうそんなところまで科学が進んだのか。ビックリしてしまう。
「しかし、我々長老会が何度も審議をした結果、これはマレビトによるこの国の征服につながるのではという意見が出た」
そう思われても仕方ないのかもしれない。しかしぜんぜんそんなことを考えたことはない。有菜がそれを叫ぼうとしたとき、クライヴが口を開いた。
「彼らは人畜無害です。エケテの村はもう10年以上、彼らエンゲーブとともにありますが、エケテの村を乗っ取ろうとされたことなど一度もありません」
「黙れ。誰が喋ってよいと言った」
一番高いところの老人が強い口調で言う。
「そう言わないでください。彼らの主張を聞くためにここに集めたのですから」
ティグリス老師が端のほうの席からそう声を発した。
「では発言を許そう。クライヴ、申し開きをせよ」
「彼らは純粋にこの世界を潤したくて、科学の知識を持ち込み、農業用ハウスを作り、ゴブリンを捕らえる方法を考えてくれました。それを女神さまは喜ばれました。それでも彼らを害悪としますか?」
「女神さまが喜ばれた?」
「ええ。彼らの知識でなにか食糧を守ったり増産したりしたとき、女神さまは喜ばれ、村の泉は激しく湧きました。彼らはこの世界のために、知恵をしぼり、我々を助けてくれたのです。女神さまは我々が飢えることなく暮らすことを望まれます。だから喜んでくださったのです」
長老会がざわめいた。
「ではここで女神さまにお尋ねしてみようではないか」
一番高いところの老人はそう言うと、段を降りてきて、足元の板をバコリと外した。泉がある。しかしエケテの村のそれよりだいぶ小さい。
「女神さま。彼らは信用に足るものですか」
老人が泉にそう尋ねると、ゴボリと泉が大きく噴き上げた。長老会はまたざわついた。
「……女神さまはお前たちを信じてよいと仰られた。下がってよい」
それで長老会の審議は終わりになった。議場を出た一同に、ティグリス老師が声をかけてきた。
「申し訳ない。長旅をさせてはならないのだろうに」
「しょうがないです。あたしたちが潔白なのを示さないと、いずれ首チョンパされるんですから」
「しかし老師、あの長老は泉に問わねば御心が分からないのですか。それでは私とあまり変わらないでしょう」
「ああ、彼は家柄だけでのし上がったから」
こっちもいろいろしんどいルールがいっぱいあるのだなあ、と有菜は思った。
一同は城を出て、市場を調査してから帰ることにした。
袋いっぱいのメジが金貨3枚というのは、なかなか庶民には暮らしにくい世の中のようだ。野菜も貧相なものしか売られていない。
メジを売り買いする商人は裕福そうだが、それでもあまり栄養を摂っているようには見えない。
「やっぱり泉の水のないところで生きていくのは大変なんすね」と、翔太。
「そうだねえ……泉の水は命だからね」
沙野がデジタル時計を確認した。ちょうど向こうで1日経った感じらしい。一同は一泊して村に戻ることにした。泊まる場所は神殿である。クライヴが神殿に入ると、救貧院の子供たちがわっと群がってきた。
救貧院の子供たちにお菓子を配り、おいしくないスープを食べて、一同は布団に入った。村の礼拝所よりはいくらかマシだ。
翌朝起きて時計をみる。大丈夫だ。一同は朝のうちに村に向かうことにした。
村に戻って、一同は花壇から現実に戻ってきた。ちょうど1日と10時間経っていた。
「江戸時代の日本に似てたでござるな」と、春臣が指摘する。
「ちょうど開国して知識の入ってきたころかあ……それならこっちにもできることがあるかもしれないね」
有菜がそう言い、とりあえず腹ペコなのでコンビニでおやつを買った。
「来年度こそ、食糧生産量倍増を目指そう」
沙野がエクレアをモグモグしながらそう言った。
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