#41 オーク肉をおいしく食べるには

 ウーとスライムの肝を炊いたやつを食べた次の日、異世界にいくとクライヴがなにやら泉でもそもそ動いていた。

「なにしてるんですか?」

「うん、オーク肉を丁寧に下処理したら美味しくなるかなと思って、泉の水できれいに洗ってるんだけど……どうもうまくいかないなあ。崩れちゃう」

 覗き込むと、ボロボロになったオーク肉が泉に浸かっていた。どうやら泉の水で溶けてしまったらしい。

「魔物はそもそも女神さまとは正反対の存在だから仕方がないのかなあ。でもそれじゃスライムの肝がおいしく食べられる理屈が分からないんだ」

 一同うーんと考え込む。

「単純に、スライムの肝とオーク肉じゃぜんぜん別物ですよね」と、沙野。

「うん、それはそうだ」

「となると、スライムの肝は水につけても溶けないけれど、オークの肉は溶けてしまう……ということではないですか?」

「そうか、全部魔物だから一括りに魔物肉だと思ってたけど、スライムとオークじゃあぜんぜん別物なわけだ。難しい」

 クライヴが難しい顔をした。

「剣術試合はどうなったっすか?」

「まだ結果は届いていないよ。もうじき鳥が来るんじゃないかな。うーん、お疲れさん会の食事、どうしようかな」

 なにかオーク肉をおいしく食べる方法を考えてみよう、と一同礼拝所に入った。

「オーク肉って、要するにおいしくない豚肉ですよね」

 椅子に座って有菜の持ち込んだお菓子(キャラメル味のスナックとピーナツがおいしいやつ)をつつきつつ、話を始める。

「そうだね。豚肉なんてなかなか食べられるものじゃない」

「であれば、豚肉の下処理の方法で食べられるんじゃないでしょうか。スライムは魚を洗いにして食べるのと同じじゃないですか」

「あらい?」

「あー……あっちの世界の料理で、魚を生のままお湯や氷水につけて引き締めて食べるやつです」

「なるほど、確かにスライムの肝を水に漬けると小さくなる。あれは引き締まっていたんだね」

「でも沙野ちゃん、豚肉の下処理っていうとなに? 筋切りくらいしか思いつかないけど」

「うーん……丁寧に筋切りして、肉叩きで叩いて伸ばして香草で臭みを消して……?」

「じゃあさっそくそれを試してみようか。ただし香草は『なんとなくいい匂いのする草』しかないけど」


 というわけで一同、礼拝所の台所に向かった。下処理の実験に使うためのオーク肉がたくさんある。

「これロースかな」

「たぶんロースっすね」

「うん、ロースだ」

「ろ、ろーす?」

「豚肉の部位のことです。オークはどこを食べるんですか?」

「どこということなく全身食べるけど」

「じゃあとりあえずロースで試してみますか」

 というわけでオークのロースをとる。なんだか脂でギトギトしているし硬そうだし、色もなんだか気持ち悪い。

 それを、包丁で筋切りして、肉叩きがないのでトンカチで伸ばした。それにクライヴが出してくれた、ほんのり匂いがあるだけの香草をぶち込み、フライパンでじわじわと焼く。

「よし! できた!」

 オーク肉の香草焼きの出来上がりだ。


 包丁で切ってみんなで食べてみる。以前食べたオーク肉はひたすらエグい味だったので、有菜と沙野は恐る恐るフォークを伸ばす。

 あれだけマズイマズイと言い聞かせたのに、翔太が高校生特有の食欲でガブリとやる。しばらくモグモグと咀嚼して、

「まあまあうまいっすね。あんまりおいしくない豚肉だと思えばぜんぜんいけるっす」と答えた。

 二人も口に入れる。たしかにあまりおいしくない豚肉の味がする。

 オーク肉から豚肉になったのはやはり感動的なことだ。クライヴはおいしい顔をしている。

「問題は香草を安定して入手する方法かあ」

「この香草はどこで採れたんですか?」

「ついこの間森に入って摘んできたんだ。薬の材料にもなるし」

「じゃあ根っこごと引っこ抜いて植えればいいじゃないですか。ちゃんと育てたらもっとおいしくなるかも」

 有菜の雑な提案に、クライヴは膝を打った。


 一同で森に入る。クライヴがすぐ香草を見つけた。ふつうにバジルやミントのような、よくあるハーブだ。

 それを根っこから引っこ抜き、周りの土も一緒に掘り起こし、壊れた鍋で作った植木鉢に植えた。周りの環境を確認すると、木で覆われて薄暗い。

「あんまり太陽の強くないところに置いておきましょうか」沙野がそう提案した。

「そうだね。これも種から増やせるのかな」

「増やせるんじゃないすか? 俺ミントの種植えたら部屋のベランダがミントだらけになったっす」

「みんと?」

「あっちの世界の香草っす」

 とかなんとか言いながら村に戻ってくると、礼拝所の窓に鳥が止まっていた。クライヴがそれを開いている間に、3人は香草の苗をわりと薄暗いところに置いた。泉の水をたっぷりやる。

「た、大変だ!!!!」

 クライヴが叫んだ。村の人たちが駆け寄ってくる。3人も向かう。

「カイルが里の剣術試合で優勝した! この手紙、都の剣術大会への招待状だ!」

 そ、それはすごい。村人はざわざわする。

 一方で翔太はわりと大人しくニコニコしている。どうしたの、と有菜が訊ねると、

「剣道だとガッツポーズすると負けになっちゃうんすよ。本当はガッツポーズして喜びたいんすけど」

「別にここ異世界だからガッツポーズぐらいいいんじゃない?」

「そっすか? ……やったー!!!!」

 翔太はガッツポーズした。いままでできなかったぶんもガッツポーズをしている感じだな、と有菜は思った。

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