#14 異世界カレーをつくろう
おいしくないケーキを食べた次の日、二人が異世界に向かうと、異世界はなぜかすっかり夏になっていた。昨日まで初夏、という感じだったのに、完全に真夏である。
気候がおかしくなったとかそういう感じだろうか、そう思ってドキドキしながらクライヴに声をかけると、
「ああ、ちょっと時間の流れかたが急になっただけだよ。あっちの世界で一日経つあいだに、こっちで1ヶ月経ってしまったんだ」
「えっ、それじゃ突然飛び飛びになったりするんですか。こっちに来たら滅びてたとか洒落にならないですよ」
有菜がそう言うとクライヴははははと笑って、
「大丈夫。泉が枯れないかぎり人は滅びないよ」
と答えた。
さて、畑を見てみると、クオンキが実をつけていた。まだ色合いは青くて若そうだ。熟れたら真っ赤になるらしい。トマトじゃないの。
そうか、石井さんはクオンキがおいしかったからトマト農家をやっているのか。そんなふうに納得して、夏野菜カレーの計画をすることにした。
とりあえずクオンキが熟さないことにはトマトの代わりにはならない。クライヴのところに来ている連絡によると、ちょうどクオンキが熟するころにビキニアーマーのひとがくるらしい。
クツクツという野菜の畑も見せてもらった。クツクツは亀の甲羅のごとき分厚い皮に包まれた、どう料理して食べるのが正解かわからない見た目をしている。焼いて皮を剥ぐそうだが、ピーラーで剥いたり包丁で剥いたりはできないだろうか。それをルーイに尋ねると、
「クツクツは焼く以外の食べ方したことないからなあ……」と言われてしまった。
とりあえずうらなりの小さいのを一つもがせてもらって、皮を剥いてみる。包丁の刃が立たない。異世界の包丁だからかもしれないが、しかし異世界の包丁もほぼほぼ現実の包丁と変わらない印象を受ける。
やっぱりクツクツの皮は焼いてしまうほかないらしい。
異世界から帰ってきて、有菜と沙野はカレーを作る準備をすることにした。カレールウを買い、肉はどうしたものだろう、というところに行き当たる。
こっちから持って行ってもいいのだが、しかしいつマリシャが現れるか分からないわけだし、そもそもコメはどうするのかという問題が立ちはだかる。
とりあえず非常食用のアルファ米を買い、それでコメをどうにかすることにした。
肉は向こうでモンスターの肉で作ればいいか、という結論が出た。おいしく食べる方法だってきっとあるはずだ。
その次の日、異世界に向かうと、村人たちはなにやら忙しそうにしていた。見れば、育苗ポットからエウレリアの苗を取り出し、植え付けている。マルチもちゃんと張られている。
二人はそれを手伝ってから、カレーの作戦をクライヴに説明した。クライヴはふんふんと聞いて、
「モンスター肉で作るなら、エグみの少ない肉のほうがいいだろうね。たとえば暴れニワトリの肉とか」
暴れニワトリ。それは家畜なのではないか。
「暴れニワトリは見た感じこそ弱そうだけど、なかなかおっかないモンスターだよ。つつかれるとそこから肉が腐るんだ」
えっ怖い。クライヴが礼拝所の裏の倉庫に案内してくれた。馬鹿でかいニワトリが逆さ吊りになって熟成肉になっている。
「これが暴れニワトリ。味としてはニワトリとあまり変わらない」
「そうなんですかあ」
「ただちょっと肉が硬いかな」
よし、夏野菜チキンカレーでめどが立った。あとはマリシャが現れるのを待つのみ。
その次の日異世界にいくと、やっぱり時間の流れかたが速かったらしく、クオンキの実は見事に色づいていた。エウレリアも、赤を通り越して黒に近い色の花を咲かせている。
白装束のクライヴが、
「ちょうどよかった、まもなくマリシャ様がいらっしゃるよ」と声をかけてきた。
それではレッツクッキング、である。タマネギの代わりにヘヘレの奥手のものを炒める。ヘヘレは時期が遅くなると辛みが強くなるそうなので、タマネギの代わりになるのではないか、と思ったのだ。
そこに暴れニワトリの肉を投入する。クライヴが肉にしておいてくれたのだ。よく炒めて、刻んだクオンキと皮を焼いて剥がしてぶつ切りにしたクツクツを放り込む。
よく加熱して水分が増えてきたので、いちど沸かした泉の水を加えて、カレールウを投入する。いい塩梅に煮えてきた。
まずは村人と試食してみよう、ということになった。
うん、悪くない味だ。ヘヘレがちゃんとタマネギの役割を果たしている。クオンキは煮崩れしないで残っているが、甘酸っぱくて程よい歯応え。クツクツも悪くない。暴れニワトリもそんなに魔物魔物した味ではない。
これならいける。そう思っていると、空からドラゴンが飛んできた。マリシャだ。
「――またマレビトが来ているのか」
「マレビトたちが珍しい料理をこしらえてくれましたよ、マリシャ様」
「……ほう。さっきからのいい匂いはこれか。うまそうだ」
いざ実食。アルファ米をお湯で戻したものに、カレーをたっぷりとかけて供する。
マリシャは一口ぱくりと食べて、しばらく考え込んだ。不味かっただろうか。有菜と沙野はドキドキしてマリシャを見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます