第5話 第一歩とその代償
私が地下室へと戻ると予想どおりにライラは私が指示した仕事を終えてご褒美を今か今かと待っていた。
「お疲れ様ライラ。しっかりと私が任せた仕事をやってくれたわね」
ご褒美として頭をなでて……私の背が、いやライラが大きすぎて手が届かない。合法的に石像を撫でられる機会なのに。
私の手が届かないのを見かねてかライラが自分から頭をさげてくれた。そのおかげて無事に私のご褒美を受け取らせる事ができた。ザラザラとしていたけどかわいい。
ライラが運んできたのは女性と少女を合わせて七六体ほど男の人の石像も同じ数はあるがまぁそのうち使うかもしれないとしておいておこう。
磨けば魅力的になり得る石像が多々あったがまずはご令嬢の石像である。私はライラを連れて三階へと戻った。階段がライラに耐えられないかと思ったけどそんなに軟では無かったので嬉しい誤算である。
ライラに指示をして伯爵の執務室まで運ばせて机に載せてもらう。それからライラを廊下に下げさせて私と石像だけの空間が出来上がる。
「私と貴女の二人きり……さぁ貴女のこと詳しく教えてもらいましょう。大丈夫、痛くは無いし悪いようにもしないからね」
若干手つきがいやらしいそうになるがこれは所謂質問と解答である。訳の分からない屁理屈を唱えつつ石像の揉めない硬くザラザラとした左胸を服の上から揉むとやはり出た。
《名 前》 リリィ・バスラット
《職 業》 バスラット領領主
《種 族》 ヒト
《レベル》 一八
《
《装 備》 石化した上質なワンピース(破損)
《状 態》 石化
やっぱり私の予想どおりリリィ・バスラットという石像はこの土地を納める領主……あれ?じゃああのクソ領主はこの娘ってこと?それは無いんじゃないかなぁ。
流石にこんな娘が領主をやってるワケが無いと考えた私は結果として逃げたクソ領主の尻拭いとして石化し残された伯爵の娘リリィが領主になってしまったのだと決めつけた。
何とも都合の良い考え方ではあるが私の計画がすこし早まったと考えられるのでヨシとしよう。この娘には申し訳ないとは思うが私の夢、ペトリガールズコレクションの礎の一つとしてバスラット領を私に献上してもらうことにしよう。
「えーとまずは……動けるようにしないとね。
すると動かなかったリリィの身体は少しづつ動き出し数分もたつと机の上に座り手足を自由に動かせるようになっていた。リリィは周りを見回すと私を見つけてたようで立ち上がると深々と頭を下げた。
『すみません何方でしょうか?それに此処は父の執務室。父に許可を取られたのですか』
機械音のような声を発したリリィは驚いた様に口を押さえている。
「ああごめんなさい、私アユリと申します。あの……が鏡ありますけどご覧になられますか。ショックが大きいかと思いますが」
私が手鏡を渡すと石化した自分の顔を触りながら衝撃を受けているようで。
『嘘……!ア、アユリ様……?私どうして石に……そうですわ。確か庭は騒がしいなと思いまして窓から覗いたのです。その時に庭に侵入していたコカトリスと目があってしまったのです。そこから今までの記憶が……まだあの魔物はこの町に⁉』
「落ち着いて下さい。私が来たときにはすでにバジリスクという魔物はすでにこの町から去っておりました。しかし住民は……」
『全員石になってしまったと……アユリ様。解石薬は持ち合わせておられませんか?』
「解石薬?ええとごめんなさい。石化させる魔物がいるなんて思わなかったから持ち合わせは無いわ」
解石薬……この町の薬草屋にあるとすれば私の障害にしかならない。リリィには申し訳無いが全て捨てておかなきゃならない。
『そうですか……残念です。幸い父の姿は見えないので救援を呼びにいったのですか?』
「この館で貴女の父、バスラット伯爵の姿は見かけてないわ。それに此処の執務室は空っぽだった。私の言いたいことは解りますか?」
俯くリリィ。そこには悲しみや憎しみといった感情では無いものが溢れていた。
『私を見捨てて逃げた男など父として認めません。しかし領主が逃げ出したとなればその娘である私が引き継ぐのが私の使命で有あり義務なのです』
「全くもってその通りだと思います。リリィお嬢様」
おだてておき領主としての自覚を持たせる。
「ですがお嬢様、そのお姿では人目に出ることは出来かねます」
リリィの姿ははたから見れば魔物と勘違いしていまい、事情を知らない者からすれば魔物がいるとしか思われない。
『そうですわね……失念してましたわ。うーん……不本意ですがアユリ様、一時的に私の秘書として雇わせていただき代理領主となって頂けませんか?私もお手伝いいたしますので』
計画通り……!後は忠誠を誓うフリをしてリリィに向かって
「承りましたリリィお嬢様。忠誠を誓いますので近づいても?」
魔力を込めながら近づいてひざまずく。
『ええよろしくアユリ……っ!』
そのまま押し倒して身動きが出来ないようにする。人間のままであったならば顔を真っ赤に染め上げられるだろうが幸いにも彼女は石のまま灰色の眼を私に向けていた。
『アユリ……どういうつもりです!』
「ごめんなさい。夢のための礎となってもらうわ。ヒプノバリス」
『あっ、え……?…………』
意識を失ったように動かなくなるリリィ、念のためにもう一度ヒプノバリスを唱えると困惑の表情を浮かべていた顔は無表情で能面のように変わり抵抗していた腕はだらんと垂れ下がっていた。
「リリィ、幾つか質問をするわ。まず一つ貴女は何者」
『はい……私は、バスラット領主で……アユリ様の忠実な……しもべです』
抑揚のない返事が帰ってくる。リリィを私のゴーレムへと堕とすことに成功したようであった。
「その通りよリリィ。次の質問ね。貴女はバスラット領主だけど、私アユリに領地を譲ることにしたのよね」
全くもって嘘であるがヒプノバリスに掛かったリリィは私の言葉を真実だと受け止めている。
『そうでした……全く、私は……駄目なゴーレムです』
完全にヒプノバリスに飲み込まれたリリィは私の操り人形と言っても過言ではなく命令すればどんなことも実行してくれるだろう。
「ありがとうね。質問は以上。じゃあ早速宣誓していただきましょうか」
『はい……私リリィ・バスラットは……ここバスラット領を忠誠を誓ったアユリ様に運営権を譲渡することをここに誓います。』
私の頭に色々と情報が流れて来る。立ちくらみが襲うが倒れそうになった私をリリィが支えてくれた。
『大丈夫ですか……アユリ様』
「ええ大丈夫よ。それよりも私はここの領主として運営になったの?このバスラット領の」
リリィはゆっくりとだか頷く。ここで私の計画が大きく前進したのは言うまでもなかった。
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