第一章 土台整理

第1話 転生したけど彫像になりそうです

 眼を覚ますと目の前にはさっきまで愛でていた勇者の大理石像……ではなく太い木の幹があった。


 当たりを見回すと周りには木、木、木、木、木しか無かった。


「どこ……ここ……」


 眼を覚ましたら見知らぬ森の中にいる。


 そんな小説をいくつか読んだことがある私、石灰愛友里いしばいあゆりは今まさに創作の中だけだと思っていた異世界転生をしていた。


「私、さっきまでゲームしてて、大理石の勇者ちゃんを愛でてたはずなのに?」


 目が覚めるまでの記憶を整理してみる。


 私は大好きなバーチャルリアリティVRゲーム『ペトリガールズコレクション』を大理石の勇者を愛でていた時に地震が起きて亀裂の穴に落ちたんだっけ。


 ……まさかペトリガールズコレクションの世界に入り込んじゃった?


 それならば嬉しかったがその可能性は低そうだった。


 なぜなら私のイチオシのお気に入り石化メイドのリメットちゃんが居ない。


 彼女は私が何処にいてもログインをするとすぐ傍らにいるのでここはペトリガールズコレクションの世界ではないことが確かである。


 だけどまだその可能性は捨てないで取っておこう。


「とりあえず人のいる所に行きましょう。そうすればここがどんな世界なのかわかる

 はず……」


 眼鏡のズレを治すと歩きはじめる。


 その時ふと気がついた。


 あれ?私って普段眼鏡してなかったはずなのに。


 それに見える範囲の服装を見てみると普段着の芋ジャージではなくなめし革のパンツに上質ではないシャツとショルダーバッグ、私が普段身に付けることの無い衣類だらけであった。


 なんでとは思ったがそれは置いておいてまずは町だ。


 町でなくても村か開拓地があればいい。


 こんな鬱蒼とした森の中にいたら人に出会う前に餓死か野生動物に殺されるかのどちらかしかない。


 もし魔法の使えるファンタジー世界ならば魔物もいることであろう。


 それならば尚更この森を抜けることしか頭に無かった。


 ガサガサと草木を身体でかき分けながら歩く。

 幸いにも道はあっさりと見つかり今度はどっちに歩こうかと迷う。


 山に向かっていく道か下りやや開けているように見える道かどちらにしようか。


「ま、こういう時はこうするのが一番だよねぇ」


 その辺りに落ちていたまっすぐな木の棒を拾ってくると平らそうな場所にたてて倒れるのを待つ。


 一回目は開けている方に倒れ、再び立ててみるが二回目もび開けている方に倒れる。

 

 おかしいなぁと思いつつ三度目もしてみるがやはり同じ方向、やや開けていそうな方向に倒れた。


「こんな事ってあるの……もしかしてお宝でもあったりして」

 

 そんな期待を持ちながら坂道を下っていく。

 道中で木刀ほどの大きさがある木の棒を見つけて手に取る。

 万が一のための護身用にした。

「てれれれ~私はきのぼうを手に入れた。なんちゃって」

 

 冗談を言いながらさかを下り終わると遠目に幌馬車の様な車両が止まっており人影が見えた。

 

 やっと人と会えたと駆け足になる。


 ……それが間違いだったとすぐに気がつくまでは。


 人の形こそしていたものの遠目にみてもその肌は人肌とは程遠い色をしており、ま

 るで石のように見えた。


「……石化しているわね」


 ペトリガールズコレクションで見れば見るほど沼に引き込まれていった状態変化の一つである。


 石化しているのならばその犯人が近くにいるはずでめを凝らしていると長髪の緑髪を持った生き物がいることに気がついた。


 気づかれぬように近づいていくとその姿がはっきりと見える位置まで近づくことができた。


 蛇の様な下半身を持ち上半身は私より少し大きな胸をもつ人間の様な姿をしているが背丈は私の数倍はありそうな生き物でその姿に見覚えがある。


「ナーガそれともメデューサのどっちかと思うけど解んないなぁ」


 昔から良くお世話になっている生物の名前をいくつか出すだ詳細は解らない。


 多分ナーガだと私は勝手に分類してその様子を物陰から様子を伺う。


 そのナーガ(勝手に命名)と思われる生物は石化しているおそらく護衛と思われる男を自前の尾で砕き口へと運び美味しそうにな表情をしている。


 血こそ流れてはいないものの私には石化破壊の趣味は無いので男といえども嫌悪感を感じていた。


 付近には石の欠片が多数転がっており数人がナーガ喰われたことが明らかであるがどうしたことか女性の護衛は砕かれずに残っていた。

 

 砕かれた男はもう助からないだろうと思うが、女性は助けられそうではある。


 あのナーガが満足して居なくなるまで隠れていようと後ろを向くと目の前に名状しがたい八本足の巨大な虫がぶら下がっていた。

「いやぁああああああああ!!!!!!!」

 クモが大大大嫌いな私は悲鳴を上げながら草むらから街道へと飛び出してしまっていた。

 目の前には例の生き物がいる。


 男の手を飲み込むと新たな獲物を見つけたように私の方にへにじり寄ってきていた。


「……私死んだかもしれない」


 絶望が襲いかかってきた。

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