メイド長から私へ
11月が終わりを迎える。
木々から落ちた枯れ葉が地面を覆い、遠い空から月光に当てられて存在感を放つ。
既に役割を終えたはずなのに、それでも夜風に晒されて舞い散っていく姿はまるで生き晒し。
ビルがひしめくオフィス街にぽっかりと空いた公園がひとつ、その中に設置されたベンチに座る私は物思う。
厚手のコートを身に纏い、中身のないキャリーケースを大事に置き、ビル群の窓から少しずつ光が消えていくのを眺め続け、進みゆく時の流れに身を任せて。
そんな無限に思える時間をただ無駄に消費している私は果たして何をしているのだろうか。
「寒い……」
かじかむ手に息を吐いて、少しでも暖を取る。
しかし、そんな私をあざ笑うように、時折迫ってくる北風が体温を取り上げて去って行く。
余計に寒さが全身に覆いかぶさり、震えが止まらなくなる。
「…………」
辛うじて持ち合わせていたマフラーを深く被り、少しでも保温に勤しむ。
静かな公園のベンチに一人、誰もいない世界に迷い込んでしまったみたいで心細い。
次第に思い出してしまう気持ちを抑え、前向きさを保とうとしたけど、どうしても思い出してしまうのはあの出来事で。
天涯孤独の私が人生の拠り所としていた場所を捨て、こうして路頭に迷っている現状がとてつもなく愚かで。
なんだか、私が馬鹿に見えてきて、
「どうして、こうなっちゃったのかなぁ……」
咳をしても一人、とはよくいったものだと思う。
誰かに助けてほしいのに、手を差し伸べてほしいのに、誰も私を見向きせずにすれ違っていく。
誰も知らない場所に迷い込んで初めて分かる自らの愚行の数々。
同じ給仕者に私たちの関係がバレてしまったのも、そのせいであの家を出て行くことになったのも、そしてあの人の隣にいるのが怖くなったのも、全部全部私が悪いことをしたから。
今更後悔してももう遅いのに、どうして私は事が過ぎてからしか気づくことができないのだろうか。
あの人と対等になることを恐れ、こうして逃げ出してしまった私のことをもう一度好きだと言ってくれないだろう。
永遠に締め付けられる心臓が苦しそうに悶えているのに、私が許しを請うのは間違っている。
全て自業自得なのだから、私には泣く資格も持たない。
もう私が泣くことは許されないのだと、そう思っていた――――――
しかし現実は奇妙な出来事の連続。
叶わないと思っていた再会を経て、司の言葉を聞いて、もう一度だけ隣にいたいと思った。
彼の声が鼓膜を喜ばせ、彼の姿が愛おしく目に焼き付いて、いつまでも傍にいたいと思い出してしまった。
また一緒にいられる、そう思うと嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、でも苦しい。
どうして苦しくなるのか分からなくて、ずっと自問自答を繰り返して。
そして、ようやく分かった。
私は守られてばかりで何も成していない。
司に守ってもらうだけでは、私はいつまでも弱い私のままだ。
司の隣に居させてもらうのではなく、私が胸を張って司の隣に居られるように。
誰にも文句を言わせないように、私が私を好きでいられるように。
――――――私は久遠澄花なんだ。
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