第23話 探偵は脱走の手口を解く
「ギャングたちが能島さんに『脳』を返す条件は、『星屑』たちにある命令を出せというものでした。つまり廃棄物をリサイクル可能な物質に変化させたり、有毒な廃棄物を無害な物に変えさせたりといった作業です」
「その『脳』を奪われたままだとどうなるんだね?」
「たとえ残りの四十九体が揃っても、思考も判断も満足にできない状態が続きます。五十体の『星屑』のうち、判断能力があって『司令塔』の役ができるのは一体だけなのです」
「その一体を、ギャングとやらはどうやって奪った?」
「能島さんが乗ったバイクをトラックで撥ね、バラバラになりかけた能島さんを介抱するふりをして司令塔役の『星屑』を拉致するのです。ボスに命じられ大曲と言う人物がその計画を実行したところ、撥ねられた衝撃で『脳』にあたる一体だけが外に飛びだして残り四十九体で構成された身体が『シリウス亭』に飛びこんだのです」
「まさか、被害者が消えたように見えたのは……」
「司令塔を奪われた群体は途方に暮れ、被害者を発見したご主人と作家先生が現場から離れた隙に元の四十九体に分裂したのです。作家先生が現場に戻ってきたとき、『星屑』たちはご主人たちが敵か味方か判別できませんでした。そこで危機を回避するためアトリウムのあちこちに分散して身を隠したのです」
「なるほど、見つからないわけだ……」
あっさりと事情を呑みこんだらしい和人が、ようやく腑に落ちたと言うように頷いた。
「それから四十九体はいくつかのグループに分かれ、誰も見ていない時を見計らって時間差で『シリウス亭』を脱出したのです」
「しかしそんな『光る小人』がいたら我々の目に止まりそうなもんだがなあ」
そう言っていぶかしむ様子を見せたのは、『シリウス亭』のシェフだった。
「彼らは敵の気配を察知した時以外は、光らないのです。司令塔を失った四十九体の『星屑』たちは物陰に身を潜めつつ、朝までかかって少しづつ脱出したのでしょう」
「なんてこった……まるでおとぎ話だ」
「能島さんが以前働いていた運送会社を馘首になった時、荷物のチラシがすべて白紙とすり替えられたという事件があったそうですが、これは能島さんを構成する『星屑』たちが起こしたアクシデントをギャングたちが都合よく利用したのだと思います」
「アクシデントというと?」
「実は『星屑」たちは自分たちの主食の一つであるインクを、つい魔がさして商品であるチラシから抜き取ってしまったのです」
「――インク!」
「彼らには幸いにして物質を変質させる力がありました。彼らはその特殊能力を使ってチラシの紙質を変化させ、何も書かれていない白紙にしてしまったのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます