第22話 探偵は謎をもつれさせる


「ご主人、私がリクエストしたお客様はこれで全員?」


「はい、全員です。あまりに急な話で冷や汗ものでしたが、どうにか都合をつけて頂きました」


 『シリウス亭』の主、白井和人はそう言うと謎解きの場と化したロビーをぐるりと見回した。集められた客は僕らと璃々砂、和人とシェフ、それに作家の郷原宏道と能島だった。


「さて、招待客がそろったところで『被害者消失事件』の謎解きを始めたいと思います」


 璃々砂が探偵役よろしく全員の真ん中に立って言うと、郷原が「あそこにいる青年は、ひょっとするとあの時、この建物に「落ちて」きた青年かな?だとしたら彼に直接聞けば、すぐに謎は解けるのではないか?」と問いを放った。


「……皆さん、どうやら『私』がご迷惑をかけたようですみません。実は私もつい先日、『私』からその時の状況を聞いたばかりでして、まだよく呑みこめていないのです」


 能島の奇妙な表現に郷原は一瞬、訝しむ様子を見せた後「つまりは記憶がない、そう言いたいのだね?……やれやれ、あれだけ不思議な消え方をしておいておぼえていないとは」と言った。


「能島さんが事故当夜の事を覚えていないのには、理由があるのです」


 璃々砂は話の流れを自分の元に引き戻すと、「それを説明するにはまず、能島さんの一族が持つ驚くべき特徴について話す必要があります」と勿体ぶった口調で言った。


「この建物の上に落下してきた時、被害者の能島さんは物を考えたり判断したりすることができない状態でした」


「それは当然だ。トラックに撥ね飛ばされた直後なんだからね」


 郷原が何をわかり切ったことを、と言わんばかりの突っ込みを入れると璃々砂は「そういう意味ではありません。あの時、能島さんはご自分の『脳』を人質に取られていたのです」と切り返した。


「自分の脳を人質に?」


「そうです。そのことを理解してもらうにはまず、能島さんの一族である『詩人』たちの特殊性について説明しなければなりません」


「……詩人?」


「はい。詩人とはある星系からやってきた来訪者の通称です。詩人たちは外見上は普通の人間ですが、実はイワシの群れと同じような『群体』なのです」


「群体だって?何を言っているんだね君は」


「詩人の一族はそもそも、『星屑王子』と呼ばれる小さな光る人間の集合体なのです」


「星屑王子……」


「彼らは通常、数十体で一人の『人間』を作ります。能島さんの場合、一人の人間を構成するため五十体の『星屑王子』が集まっているとのことです」


「五十体……とてもそんな風には見えないが」


 長台詞をよどみなく喋る璃々砂の手元をよく見ると、どうやらポケットから携帯を出したり入れたりしているようだった。あいつ、『来訪者図鑑』とやらをカンニングしているな。


「被害者の『脳』を人質に取ったのはリサイクル会社を隠れ蓑にしているギャング集団です。彼らは『星屑王子』の特性である「物質変換能力」に目をつけ、星屑の宿主である能島さんを脅迫するため事故を装って『脳』を奪ったのです」


 璃々砂の謎を解いているとは思えない難解な説明に、ロビーのそこかしこで首を傾げる様子が見受けられた。


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