第12話 探偵は強面を招待する


「詩人ともめてるか、だって?……お嬢さん、この町じゃ耳に飛び込んできても知らん顔しといた方が平和な話だってあるんだよ」


 以前、能島が勤務していたらしい運送会社を璃々砂と共に尋ねると、見るからに少し前まではやんちゃだったと思われるドライバーが凄みを聞かせた声で言った。


「――もう、いい大人が女の子を威嚇して楽しい?昨日今日、地球に来たわけじゃないんでしょ?あなたじゃ話にならないわ。上の人を呼んで頂戴」


 脅されてひるむどころか、璃々砂はいかついドライバーに対して逆に注文をつけ始めた。


「――ちっ、口の減らねえ餓鬼だな。調子が狂うぜ。……ちょっと待ってろ」


 捨て台詞を残して引っ込んだドライバーが奥から連れてきたのは、さらに一回り大柄なスキンヘッドの中年男性だった。


「どのお子さんだね、誠実一筋のわが社にクレームをつけてきた女の子ってのは」


 スキンヘッドの頭頂部に髑髏のマーキングをした男性は、璃々砂を見るなり「……んっ?あんた見たことあるな」と眉を顰めた。


「私は星崎璃々砂――『散歩楼のメテオラ』よ。ご存じない?」


 ふてぶてしいまでの余裕で仁義を切る璃々砂に、巨漢ははっとしたように目を瞠ると「すみません、うちの若いのは古株の『来訪者』とあまり会ったこ

とがなくて……ご無礼、お許しを」といきなり態度をあらためた。


「あらためて聞くけど、こちらの会社で能島さんっていう『詩人』の一族が働いてたわよね?在籍中にトラブルを起こしたことは?」


「それは……まあ、ないこともないです。濡れ衣のような物ですが」


「濡れ衣?」


「ひと月ほど前に荷物の中味がすり換えられてた事件があって、それでほとんど人付き合いのない脳島が疑われたっていうことがあったんです。本人に質したところ「覚えがない」の一点張りだったんで、一応は収まったんですけどね」


「中身は何だったんですか?」


「チラシですよ。それがひと晩で何も書いてない白い紙にすり換えられてたんです」


「変な話ですね……」


「で、それもあってか契約が更新されず、本人も嫌気がさしたんでしょう、さっさとやめて行きました。ところがしばらくして、若い奴からこの辺の宇宙やくざが能島をねらってるらしいって話を聞きまして、どうもこいつは能島個人の話じゃなく宇宙やくざと詩人の間のいさかいだなと思った次第です」


「なるほど、どうやらそこにカーブ事故と繋がる何かがありそうね。……ありがとう、参考になったわ。良かったら一度『散歩楼』にも来て頂戴」


「ぜひ、行かせて頂きます。姐さん」


「姐さん?」


「あ、いや……よもやごろつきと渡り合うとは思いませんが、身辺にはお気をつけて」


「どうぞお気遣いなく……さ、行きましょう。聞き込みもいよいよ後半よ」

「はあ……」


 僕は強面たちに背を向け、すたすたと歩き出す璃々砂の背中を慌てて追いかけた。

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