第13話 探偵に明日はない
『ご町内の皆様、毎度お騒がせしております。こちらは『天駆ける廃品回収・リサイクルプラネット』の回収車です。ご家庭でご不要になりました古新聞古雑誌、ペットボトル、電池、鉄、ニッケル、放射性元素、使用済み宇宙人等ございましたら、多少にかかわらず合図お願いします』
「……あの軽トラックに乗ってる若い子が『プラネタリーノ』の子分ね?ボリス」
「さようです」
「じゃあ次に停車したら、追いかけて捕まえるわ。『罠』を用意しておいて」
「承知しました」
運送会社の聞き込みを終えた後、アジトでいったん仕切り直しをした僕らがやってきたのは町はずれの閑静な住宅地だった。
璃々砂とボリスによるとこの辺りの宇宙やくざを取りまとめているのは、廃品回収業を営む中年の社長らしかった。本人はなかなか表に姿を現さないが、地球人に乗り移って間もない『不良来訪者』たちの面倒を見る代わりに仕事を手伝わせているのだという。
「で?どうするんだい?やくざにやくざさんですかって聞いたところで、はいそうですとは言わないと思うけど」
「出入りしてる下っ端のチンピラを捕まえて吐かせるわ。……ボリス、『エイリアントラップ』は持ってきた?」
「持ってきた。この中にしこんである」
そう言ってボリスが掲げたのは雑誌と古新聞の束だった。
「トラップ?……それが?」
「そうよ。……あ、トラックが停まったわ。出発しないうちに捕まえちゃいましょ」
璃々砂はそう言うと、ボリスから雑誌の束を受け取ってトラックが停まっている角へと駆けだしていった。
「すみませーん」
少し離れた場所から様子をうかがっていた僕は、璃々砂の女優っぷりに舌を巻いた。両手に紙の束を携えて息を切らしながらトラックを追ってくる少女は、一見すると一生懸命に家の手伝いをしているけなげな女の子としか見えない。
「ああどうも、こんなにたくさんありがとうございます」
表情を崩しながら屈みこんだ若い回収業者が紙の束に手をかけた、その時だった。
「――うっ」
業者は短い呻き声を喉から漏らすと、スイッチを切られたようにその場に崩れた。
「ちょっと失礼」
璃々砂の後ろから近づいてきたボリスはそう言うと業者の身体を担ぎ上げ、そのままトラックの荷台に放り込んだ。
「全員は乗れないので、ご容赦」
ボリスはそう言うと、様子を見に近づいた僕までも担ぎ上げて荷台の上に乗せた。
「おい、ひどいじゃないか。人を廃品扱いするなんて」
「アジトに着くまでの辛抱よ。滅多に乗れない特注オープンカーの乗り心地を楽しんでね」
璃々砂は荷台を覗きこみながら、悪びれる様子もなくそう言った。
「さ、行くわよボリス」
「了解」
璃々砂とボリスは運転席と助手席に乗り込むと、荷台の上で業者と身を寄せ合っている僕になど一切構わず強奪したトラックで走り出した。
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