第10話 探偵は勝手に聞き込みをする


「トラックにふっ飛ばされても死なない奴ねえ……。いないこともないが、その上バイクに乗ってる奴と言うと、俺の知ってる範囲にはいねえなあ」


「でも、知らないわけでもない……そんなところかしら?」


「まいったな、隕石村の顔役、メテオラ様には何もかも御見通しってわけですかい」


 ラーメン店『味覚人みかくにん』の大将は禿げた頭をひと撫ですると、ばつが悪そうに言った。


「たしかに不死身と言われる奴は何人か知ってますが、何せ近頃は『来訪者』たちとの付き合いもさっぱりでね。それに俺自身もこの星の人間と融合してだいぶ経つんで、同化し過ぎちまって誰が『来訪者』だか見分ける力が薄まっちまってるんです」


「それで?不死身と言われる住人はどのあたりにいるの?」


「この先のアパートに身体再生能力を持った住民がいて、以前はよくこの店に来てました。……ただ無口な客で、どういった家族構成なのかもよく知りません。この村でやくざ同士の小競り合いがあった時に運悪く巻きこまれて『来訪者』と合体したらしいんですが……」


「ふうん……興味深いわね。これから訪ねてみたいんだけど、行き方を教えてくれる?」 


 大将は「いるかどうかわかりませんよ」と前置きした上で、アパートの位置を殴り書きしたメモを璃々砂に手渡した。


                ※


「ここがその『死なない一家』が住んでいるっていうアパートね」


 璃々砂は老朽化が進むアパートの二階を指さし、興奮気味の口調で言った。


「ちょっと、まだ当人に会ってもいないのに、人聞きが悪すぎやしないか?」


 僕が常識人としてさりげなく釘を刺すと、璃々砂は「会ったらもっと過激なキャッチフレーズがつくかもしれないわ」と平然と切り返した。聞きこみを始めるにあたって、あまりに大人数では目立ちすぎると、最終的にアパートを訪ねる役目は僕と璃々砂に割り振られたのだった。


「それじゃ、行くわよ。堂々としててね」


 璃々砂はお供に過ぎない僕に強引にパートナーの役目を押しつけると、アパートの外階段を上り始めた。


 目的の人物がいると思しき部屋は二階の角にあり、璃々砂は外廊下をとことこ進むと目的のドアの前で足を止めた。


「もしもーし。こちらのお宅に一度、『消えた死体』になった方はいらっしゃいませんか?」


 璃々砂はチャイムを鳴らすと、中の住人に向けてとんでもない呼びかけを口にした。


「……どちら様です?」


 しばらくすると、男性の物らしいくぐもった声が中から返ってきた。


「天邦山地区で『散歩楼』っていうお店をやってる星崎って言います。『シリウス亭』のご主人から謎解きの依頼を受けてきましたあ」


 僕は適当な口上をしれっと口にする璃々砂に呆れると同時に舌を巻いた。どう考えても単に興味本意に首を突っ込んでるだけで、依頼など受けた形跡はないというのに。


「……わかりました」


 返答があってほどなくドアロックが解錠される音が聞こえ、前髪で顔の半分を隠した背の高い男性が姿を現した。


「なんでしょう」


「お休みのところごめんなさい。私たち、『消えた死体』さんの手がかりを探しているんです。トラックに撥ねられた後、『シリウス亭』のアトリウムに落っこちて、それから消えた死体さんを」


 璃々砂が壊滅的に意味の分からない説明をまくしたてると、男性は「ああ……まあ、トラックに撥ねられたことならありますが……自分の意思で消えたことはないです」と隕石少女に勝るとも劣らない意味不明の返しを口にした。

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