第8話 移住者たちは現場に集結する
「あの晩、うちに泊まられたのは作家の
『シリウス亭』の主、
「ちょうどあのあたりですよ。『人』が天井を突き破って落ちてきたのは」
和人が陽射しの溢れる透明な天井を指さすと、璃々砂が「なるほどね」と言った。
「上の坂から落ちてきて天井を突き破ったら、無事じゃすまないわ。それなのにすぐに立ちあがって行方をくらましたとなると、少なくとも普通の人間じゃないわね」
「私もそう思います。このあたりには飛行能力を持つ住人もいるので、最初はそういった類の『来訪者』が落ちてきたのかとも思いましたが……どうも違う気がします」
和人はそう言うと、アトリウムの真ん中にある大テーブルの前に移動した。
「落ちてきた人物は、このテーブルの真ん中あたりに激突したらしく、テーブルの脚が折れて傾いていました」
「動いたり、声を上げたりは?」
「まったく。黒いライダースーツにヘルメット姿のまま横たわっていて、ピクリとも動かないので生きているのか死んでいるのかすらわかりませんでした」
「ふうん……救急車を呼ぶために一度、奥に引っ込んだって言ってたけど、その間、ここには誰かいた?」
璃々砂と和人のやり取りには、何とも言えない非現実感があった。十歳くらいの少女が父親くらいの男性に対等な口を効くということ自体、普通ではありえないことだ。
「郷原先生がいました。私としては、お客様がショックを受けないようお部屋の方にいていただきたかったのですが、どうしても見たいとおっしゃって……」
「この現場から外に通じるルートは、いくつあるの?」
「二つです。ロビーを横切っていくルートと、厨房の方から裏口へと回るルートです」
「それぞれのルートに人は?」
「ロビーには私が、厨房にはシェフがいました」
「二人とも、人が出て行くところは見ていないのね」
「どちらも横切ってゆく人影があれば、絶対に気づくはずです」
和人はきっぱりと断言した後「……その人物が瞬間移動でもしない限りは」と遠慮がちにつけ加えた。
「にもかかわらず落下した人物はアトリウムから消え失せた……か。現場をご主人が離れていた時間は、どれくらい?」
「……十分くらいでしょうか」
「その間、ここには誰かいた?」
「郷原先生が五分くらいいたそうです。その後、ロビーに来られて私と合流しました」
「……で、二人で戻ってきたらもう被害者はいなかった、と」
「そうです。館内を状業員総出で探しましたが、どこにもいらっしゃいませんでした」
「だとしたら考えられる可能性は二つね」
「二つ……ですか?」
「そう。一つは超常能力を持った『来訪者』だった場合。もう一つは近くから人気が消えた時に素早くどこか身に身を隠し、消えた自分を皆が探している間に隙を見て外に出たという場合。超常能力の方は最後の答えに取っておくとして、まずは自力で身を隠したって可能性を探ってみたらいいと思う」
「可能性を探る……」
「一番手っ取り早いのは本人に聞くことだけど、問題は被害者が村の人間なのか、よそから来た人なのか正体がわからないってことね」
璃々砂はどこまで真面目に言っているのかわからない説をひとしきりぶつと、「さて、どこから手をつけましょうか」とまるで捜査本部で檄を飛ばしている刑事のように言った。
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