第3話 迷子たちは遊星難民に招待される


 謎の少女に導かれるままたどり着いた建物は、木立の奥にひっそりと建つ西洋風の古民家だった。


「ゆっくりしていってね。私は星崎璃々砂りりさ、十一歳よ。……こっちはボリス、私の部下」


「……部下?」


 アンティークな椅子に人形のようにすっぽりと収まった少女は、まるで自分が主であるかのように大男を目で示した。


「ええと……ここで生活されてるんですか?」


 門馬は子供相手にまるで取材でもしているような物腰で尋ねた。先ほど、建物内でカメラを回そうとしてボリスに遮られた失点を挽回しようというのだろう。確かに趣のある外観とリビングは、映像ディレクターの目で見れば最高のロケーションに違いない。


「そうよ。ここは私たちの住居兼、お店でもあるの。週末しかやってないけどね。お客さんはご近所の常連さんばかりだけど、たまに敵の偵察隊や『遊星体』に憑依されたヤクザなんかも来るわ」


「なんです、その『遊星体』ってのは」


「隕石でこの星にやってきた、異星生命体の意識エネルギーよ。私の身体も、その中の一人『メテオラ』が動かしてるの」


 僕はあっと思った。そう言えば、あのサングラスの男はこの子のことを『メテオラ』って呼んでたっけ。


「ちょっと、現実の話を伺いたいんですが……」


「そっか、あなたたちは外の人だものね。このあたりの人たちなら説明しなくてもわかってもらえるんだけど」


 少女――璃々砂はううんと唸って宙を睨んだ。こんなC級SFのような話を大人に聞かせる目的はなんなのだろう。


「この集落には昔、やくざの隠れ家があったの。ところが敵対組織に見つかって武闘派同士の小競り合いが始まっちゃったの」


 年端もいかない少女の口から敵対組織なんていう物騒な言葉が飛びだすのは、それだけである種、異様な眺めだった。


「で、やくざの幹部、星崎三郎――私のパパね――がヒットマンに殺されちゃって、病気で動けなかった娘の私に乗り移ったってわけ」


「乗り移った?」


「あ、パパに超能力があったわけじゃないの。たまたま、この辺りには異星生命体の意識が乗ってきた隕石が大量に埋まってて、そのうちの一人がパパに力を貸してくれたってわけ。もちろんタダってわけには行かなくて、この身体を私とパパと『メテオラ』の三人で共有するっていう契約の上で蘇生してもらったんだけど」


 僕は少女の語る荒唐無稽な話についていけず、やばい家に招かれちまったなあと心の中で肩をすくめた。


「あ、ちなみにボリスはその抗争を止めに来た刑事さんの魂と、抗争で死んだヤクザさんたちの身体を合体させた警察と極道のハイブリッド人間よ」


 僕らはもう、口をあんぐりさせて少女の話を聞いているしかなかった。宇宙人と刑事とやくざが生き返ったり合体させられたり、なんなんだ、この安っぽいSF小噺は。


「そんなわけでさっき私に言いがかりをつけて来たのも、実は『メテオラ』が追ってきた凶悪意識体が憑依した住民なの。今は見逃してあげてるけど、いつか取っ捕まえてやるわ」


 敵について語る少女の目が一瞬、赤く輝いたのを見た僕は、門馬ならこの『隕石村』に喜んで本拠地を移すといいかねないぞと密かに危惧を抱き始めた。


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