第47話

「古の盟約によりて、マクレインの正統後継者ジェイクが請う。我が後を継ぐ次期後継者セイルの居場所を指し示したまえ」


 レインが正統なる王子なら、次期後継者はセイルだけとは限らない。


 しかし魔法の地図にジェイクが血を垂らした途端、現れたのは力強く光り輝く青い光ひとつきりだった。


 ジェイクは以前セイルが抜け出したときも同じ術で、セイルの居場所を割り出した。


 そのときも力強く光り輝く青い光が、セイルを示していたのだ。


 まるでセイルの性質を示すように。


 争いを好まない性質を。


「これでわかったな。レインは父上の血を引いていない。レインはセイルを憎んでいるようだが、それは逆恨みだ。恨むなら不貞を働いた母親を恨むべきだ」


「それでセイル殿下の居場所はわかったのでしょうか」


「場所は王宮の奥深くまだ移動中らしい」


 そう答えてからジェイクは、車椅子の上からミントを見上げた。


「これ以上先に進まれると厄介だ。なんとしてもセイルを取り戻すんだ!」


「はっ!」


「それからミントは指示を出したら戻って来てくれ」


「殿下?」


「私は私なりのやり方で、セイルを追い掛ける」


「なりません! そのお体では危険です!」


「セイルだって危険を承知で、護るべきものを守るために危地に飛び込んだんだ。私を信じ後を託して。その信頼に応えずになにが兄だ!」


「殿下」


「体など言い訳に過ぎない。国王は継げずとも、私はたったひとりのセイルの家族にして兄だ。その弟が助けて欲しいと見つけて欲しいと言っているんだ。私はなんとしても、その信頼に応えてみせる!」


「承知致しました。早急に指示を出して参ります。火急的速やかに戻って参ります。ですからどうか早まった真似はお控えくださいますようお願い申し上げます、ジェイク殿下」


「わかっている。今の私はミントの介添なしでは、ろくに動けないからな。護〈まもる〉にはこちらに合流してもらって、総指揮は副将軍に任せてくれ。頼んだぞ」


「はい。では御前失礼致します」


 ミントが鮮やかに身を翻す。


 ジェイクはその間に支度をしようと準備を開始した。


『ねえ、兄さん。こんなの作ってみたんだけどどうかな?』


『それは? 随分長い棒だが』


『松葉杖って言って和の国にある足を骨折したりして歩けない人が使う治療器具なんだ』


 そう説明してセイルは、片足を固定して、唯一動く片足で器用に歩いてみせた。


『ほう。片足さえ動けたら、それさえあれば、かなり自由に動けそうだな。だが、私の脚は両脚とも』


『兄さん、諦めちゃダメだよ! 兄さんの脚は両脚は無理だとしても、片脚は治る可能性が高いと聞いてるよ! 諦めてちゃなにも始まらない! 努力したら歩けるかもしれないと信じてよ!』


『セイル』


『その証拠に眼は治ってるでしょ?』


『どうして気付いて?』


『だって兄さん注意深く振る舞ってたけど、ふとしたときにバッチリピントが合ってるんだもん。あ。これは治ってるなとすぐにわかったよ』


 そう言って笑ってから、セイルは一言付け足した。


『隠すのもなにか意味があるからだろうと思ったから、今まで黙って様子を見てたけど。兄さんの体は少しずつだけど良くなってる。なら、脚だって動くようになるかも知れないでしょ? それはリハビリは大変かも知れないけど、ボクは兄さんと中庭を並んで歩いてみたいな』


 そのときの言葉と贈り物をキッカケに、ジェイクは歩行訓練を始めた。


 最初は松葉杖だけに頼り過ぎ振り回されてしまったが、そうやって動いていたのがよかったのか、利き足の右足だけ感覚が戻り始めた。


 そこからは比較的早かった。


 右足が僅かでも、日々良くなっていき、歩けるようになるまでには。


 そうなると松葉杖を使うときの負担も減っていき、徐々にスムーズに動けるようになってきた。


 左足は右足ほど自在には動かせないが、以前の石みたいな無感覚な感じはない。


 もう少し歩けるようになったら、セイルを中庭に散歩に誘おう。


 そう決めていた矢先だったのに。


 まさかレインにセイルが拉致されるとは。


「これなら少しは足手纏いにならないはずだ」


 しまってあった松葉杖を取り出して、出来るだけ迅速に歩いてみる。


 鍛えている護〈まもる〉やミントにとっては、これでも足手纏いで、ジェイクがいないほうが楽かも知れないが。


「私は私に生きる希望をくれたセイルだけは、出来るだけ私が助けたいのだ。我儘かもしれないがな」


「そんなことはございませんよ、ジェイク殿下」


「護〈まもる〉」


「殿下にとってそれだけあの子が、優哉が兄弟の境界線を超えて大事な存在になった。これまでの触れ合いによって。私はそういうことだと思っていますから。それに今回の件、ジェイク殿下にお出まし願わないと、レインという第三王子を名乗るものを説き伏せられないと思うのです」


「どういう意味だ?」


「お前は王子ではない。そう自分が臣下だと思っているものたちに身分が下のものに言われたら、怒りは囚われているセイル殿下の身に及び、殿下が危険に晒されるかと」


「セイルの居場所はっ。よかった。地下で迷っているのか変化はない」


「その自分を信じる根拠を崩すには、ジェイク殿下からの絶対的なお言葉が必要かと」


 それはジェイクを危険に晒すかもしれないが、ミントがいる限り、ジェイクの身の心配はいらないだろう。


 自分はジェイクの献身を無にしないよう息子を護るだけだ。

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長兄に溺愛された次兄の受難、末弟の歪んだ復讐〜壊れるまで穢したい〜 @22152224

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