第41話
「名付けて貰えなかった王子、か。そんなところまであの頃と同じだな。父上。何故ですか? 何故あの者を闇に葬られたのですか? セイルはあんなに気遣って育てていたのに」
ジェイクの父は王としても優れていたが、子煩悩であることでも知られていた。
手元で育てることのできない第二王子をとても可愛がり、手放すまでに体験したことを、ジェイクに度々話してくれたほどだった。
法律の改正についても父から引き継いだことである。
セイルを取り戻したいと父は頑張っていたが力及ばなかったのだ。
志半ばで病に倒れ代理のジェイクでは無理だった。
生きている間に逢わせてやりたかったが、それも法律の壁に阻まれ、父は成長した息子の姿を見ることなく死んでいった。
そんな父が何故と何度も問い掛けた。
何故こんなにも扱いが違うのか。
同じ息子だというのに。
セイルの名は父が名付けた。
例え名乗ることのできない名でも、大空に帆を広げて走る帆船のように自由に生きてほしいという願いを込めて。
なのに「あれ」には名付けることもしなかった。
それどころか噂を知ったジェイクが問い掛けたときだ。
ただ一度だけ父に問い掛けたあのとき。
『ジェイク! 二度とその話をするでない!』
頭ごなしにそう言われた。
その顔には明らかな怒りが浮かんでいた。
そう。
話をされただけで怒った。
子煩悩なはずの父が。
その後、思い出したのだ。
父はジェイクの母である正妃も、セイルの母である和の国から迎えた第二妃も、生涯愛して大切にしたが、第三妃だけは離婚という手段を使ったことを。
第三妃は所謂妾だ。
それでも女性を愛したときに誠実に振る舞う父だから、本当なら妃は名乗れないのに第三妃という位を授けた。
そこまでして妃に迎えたのに、その彼女を離婚して排除した。
これもまた事実である。
その女性は今では行方も知れないというが。
父が亡くなって遠慮する必要のなくなったジェイクは、そのことについて調査を行っていた。
それはジェイクが生死不明となっている現在、おそらく中断されているのだろうが。
ミントに言って続行させようか。
そんなことを考えながらジェイクは次第に眠りに入っていった。
「結局ぼくにはなんの力もないんだ」
悔しくて呟く声にも力が入らない。
ミリアが国外退去させられたと知ったのは、彼女が居なくなった翌日のことだった。
こんなことなら閉じ籠もらないで情報収集していれば良かったと悔やんだが、最早後の祭りである。
それからも数日、優哉はなにもやる気にならなくて、ぼんやりと日々を過ごしていたが、あるときミントが言った。
「学園へ通われては如何ですか?」
部屋にやってきたミントに言われても答えずにいると、ミントはお茶の準備をしながら話を続けた。
「セイル殿下が卒業まで学園に通うことはできません。殿下にもお別れを仰りたいご友人はいらっしゃるでしょう?」
「友達?」
そう言われてケントの顔が頭に浮かんだ。
もう許してくれないかも知れない。
向こうは友達だと思っていないかもしれない。
それでももう逢えなくなるのなら、きちんとお別れを言いたい。
そして謝りたい。
傷付けてごめん、と。
自己満足と思われてもいい。
傲慢だって責められてもいい。
それはケントの権利だし、責められるのは優哉の義務だ。
ミリアが居なくなって、このまま無為に日々を過ごしていても意味はない。
時間はぼんやりしていたって過ぎていくんだから。
そして王になったら優哉にはやらなければならないことがふたつある。
ひとつは王位継承に関する法律の改正。
第一王子以外を市井に出すという慣習を変えること。
もうひとつはヘイゼル家に関する弾圧をなくすこと。
過去は過去として現在のヘイゼル家の人々には、なんの罪もないと貴族や大臣たちを納得させること。
どちらも大仕事だ。
でも、優哉がやらないと誰もやってくれない。
「のんびりしてちゃいけないんだね、ぼくは」
「貴方にはやるべきことがある。塞ぎ込んでいても前向きに取り組んでいても同じ一日。なら有意義に過ごすべきです。違いますか?」
「明日から学園に通うよ」
吹っ切れたように笑う優哉にミントも小さく頷いた。
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