第42話
「お妃様の問題はどうされますか? まだ候補も見つけ出していらっしゃらないのでしょう?」
「最悪の場合お仕着せの妃でも、仕方ないかなとは思ってる。調整が大変だろうけどね」
「確かにそうですね。それについてはジェイク殿下に伺っておきます」
「お願いします」
「殿下?」
普通に頭を下げると注意する声を投げられて、優哉は「あっ」となった。
素性を知る前に教授として知り合ったからか、ミントには低姿勢になってしまう優哉である。
本人からも注意されているし、呆れた兄からも注意されているが、悪い癖はなかなか直らない。
「ごめんなさい。注意されているのになかなか悪い癖が直らなくて」
「どうでもいいことですが、謝罪内容すら敬語ですよ?」
頭を抱えるミントに優哉は照れてこめかみを掻いた。
暫くぶりの登校だったが、学園にはなんの変化もなかった。
当たり前か。
学生がひとりいきなり居なくなっただけだし、優哉に関しては事情も打ち明けずに休んでいただけ。
素性すら明かしていなかったら、優哉が休んだくらいで問題になるわけがない。
しかし変化は意外なところで起きていた。
「レイーン。そりゃないぜ、お前!」
ケントが親しそうに話しているのは、見たことのない顔の少年だった。
どう見てもまだ高等学園に通える年齢じゃない。
優哉はさりげなく近くの席の生徒に聞いてみた。
「誰? あの子? 誰かが飛び級でもしてきたの? こんな時期に」
「そうだよなあ。そう思うよなあ? 普通。あれで17だって。あいつ」
「嘘」
「じゃない。本人がそう言ったんだ。自己紹介のとき、どう見ても14、5にしか見えないから、女子が騒いだら17だって本人が言ったんだ」
「ふうん。ケントと仲がいいの?」
「あーうん。ユーヤには言いにくいけど、ユーヤが居ない間にあいつの方からケントに近付いて行ってさ。なんか急接近的な?」
「そうなんだ?」
「ユーヤのこととか、後輩のあの子のこととか、色々話題にしてるみたいだぜ?」
そう言われてユーヤは、ケントと戯れている男の子を見ていた。
何故だろう。
なにかが引っかかる。
この国にしては珍しい色の髪だからかな?
和の国の黒髪とも違うけど、それに近しい色。
あんな色。
この国の出身であり得るのかな?
優哉の髪が珍しい栗色なのは、半分和の国の血を引いているからだ。
それでもミルベイユの血も引いているから、その色素も薄くなっている。
なのに優哉よりも濃い黒髪だ。
でも、生粋の和の国の出身と思うには薄い色。
まるで違う国の出身みたいだ。
「そういえばユーヤがいない間に行われた抜き打ちテストで、首位に躍り出たのもあいつなんだ」
「へえ。凄いじゃない」
「でも、ユーヤがいたら勝ってたと思うぜ?」
「どうして?」
「ユーヤはいつも全科目満点だけど、あいつユーヤより成績悪かったから。それを聞いたらなんでか知らないけど、その後不機嫌そうだったなあ」
聞いた情報すべてがなんだか引っかかる。
まるで顔も知らなかったあの子に敵視されているような錯覚を覚えて。
「本人はユーヤのことライバルと思っていそうなんだよなあ」
「なんで? ぼくなにかしたっけ?」
「知らないって。やたらとユーヤの情報を集めたがるし、なんでか知らないけど、聞いたユーヤの情報を乗り越えようとしてるし」
「例えばぼくが首位だったら、自分が首位になろうとしたり?」
「そう。だから、ユーヤが登校して来たら揉めそうだって、みんなで噂してたんだ。どうしてケントはユーヤに対して含みがありそうなあいつを構ってるのか、不思議なんだけどな」
そう言われて優哉は、今度は見知らぬ少年と楽しそうに会話しているケントを見た。
それはやっぱりミリアの件で、優哉を許していないということなのかなと感じて。
凄く辛いけど学園に通えるのも後僅か。
その間にケントに話さないと。
傷付けてごめん。
もう逢えないけど元気でって。
聞いてくれるかな?
それだけが心配だった。
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