第29話
兄にミリアの問題を打ち明けてから暫くして、優哉はふたりにどう話すべきか悩んでいた。
波風を立てずに解決したいのだが、ミリアにしてもケントにしても、その問題を正面から話せば絶対に傷付く。
それを思えば迂闊に行動を起こせない。
そんなある日。
学園に行くと廊下がザワザワと騒がしかった。
なにかが掲示板に張り出されているようだ。
なんだろう?
何気なく近付いて覗き込み、ハッと息を呑んだ。
そこにはこう書かれていた。
『ミリアージュ・ヘイゼル。この生徒を本日付で以って退学処分とする』
退学という文字とミリアの名前から目が離せない。
決めたのはどうやら理事長らしかった。
理事長のサインがある。
ガクガクと足が震える。
崩れそうになったとき、ガシっと肩を掴まれた。
振り向けばケントである。
彼の顔も強張り青ざめていた。
「お前も見たのか?」
「たった今。どういうこと? ミリアがなにしたの?」
「わからない。担任にも聞いてみたし、校長にも掛け合った。理事長にだってぶつかってみたんだ。だけど誰一人として理由を言わない」
理由を言わず退学?
それはおかしい。
この学園は確かに規則に厳しい。
違反すれば厳しく罰せられるのが常識だ。
だが、優哉が知る限りミリアは、これといって規則違反をしていない。
限界まで頑張って飛び級してきたこともあり、絶対に問題を起こさないように、常に気を付けて動いていた。
問題を起こし退学になったら、ミリアにしてみれば優哉の傍に居られなくなるという、切羽詰まった事情があったのだ。
だから、絶対にそういうことにならないよう、普段から意識して振る舞っていた。
それで退学になるような行動を起こすはずがない。
それでももし万が一ミリアが、退学になっても仕方のない違反をしていても、理由も言わずに退学させるというのはおかしすぎる。
言わないのは理由がないから言えないのか。
それとも言えない理由があるのか。
「言えない理由?」
ミリアに一般の生徒との違いがあるとしたら、次期国王の優哉と幼馴染として育っているという部分だ。
そしてつい最近優哉とミリアは揉めている。
ミリアに無理にキスされた場面を保護者のミントに見つかってもいる。
「まさか、それで?」
呟く声が掠れる。
「おい。なにか心当たりがあるのか、ユーヤ?」
問いかける声も無視して優哉は駆け出した。
おそらくこの事態の陰にいるはずの人物のところへ。
ミントに特別に与えられている教授室へと飛び込むと、そこではミントが静かな表情で待ち構えていた。
「いらっしゃるだろうと思っていました」
落ち着き払ったその態度が憎らしい。
睨みつけながら口を開いた。
「この事態、どういうこと? ミリアを退学にしたの、絶対にミント教授だよね?」
「はい。わたしです」
「どうして? 理由を言ってよっ!」
「理由は彼女が罪を犯しているからです」
犯した、ではなく犯している?
過去形ではなく現在進行形?
どういうことだ?
「彼女が犯している罪をセイル殿下にお教えすることはできません」
「勝手に退学させておいて、ぼくには理由も言えない? 勝手過ぎない?」
「言えません。殿下をこれ以上傷付けたくはないですから」
「教えて貰えない方が傷付くよ」
俯いてそう答えれば、ミントは目を逸らした。
「もしかしてこの間の事件が原因? 彼女がぼくに無理にキスをしたから?」
「まさか。幾ら貴方様が次期国王とは申せ、それだけのことでこんな処罰はしません。そこまでわたしも暇ではありませんし、殿下にもプライバシーはおありでしょうから」
口調では否定しているが、あれが引き金だったことは、優哉にもわかる。
あの事件がなかったら、こんな事態になっていない気がするから。
ミリアの気持ちが優哉のところにあるからいけない。
それだけは理解した。
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