第3話

『あの日に夢で見た街だった』



 ヘリコプター。

私は何度か乗ったことがある。国内と外国で。


 国内では、上空から眺める富士山の、白い雪を裾野へと纏い山の青に重ね襟をして、雲を羽衣のようにたなびかせている姿に、日本の古来から神体山とあがめられる、美しいその山に息を呑む思いだった。


 日本の山。富士山。外国で日本の紹介をする時に富士山の話をすると、ほぼ100%皆が知っていた。


 外国では、観光地の遊覧飛行で乗り、山の広大な眺めを見て、渓谷を窓から覗き込み大自然の中に飛ぶ壮大な中で、帰りのフライトでひと寝入りして心地良かった。


 外国でスカイダイビングをした時、受付で英語がよく分からず、何でも「イエス、イエス」と答えていた。多分、経験があるか?など聞いていたのだと思う。


 ヘリコプターで着地点の上空まで飛んで行く間、係の人達とカタコトの英語で話をしていた。その人達は元空軍にいたと言った。


 着地点近くなり、係の人がパラシュートの用意を始めて、もう1人が扉を開けた。一緒にいた友人が少しパニックになり「キャーキャー」と騒ぎ、係の人が「あなた大丈夫?」と係の人達も驚いていた。


 友人は扉が開いたので、空に吸い込まれると思ったらしく、係の人達は私達が経験者だと思っていたらしかった。


 ヘリコプターは、扉が開いても機内には何も風は入って来ない。私は扉に近き「全然大丈夫だよ、ほら!」と扉の前に立った。


 扉の外は雲の中だった。手を伸ばしたら雲に届く距離に腕を伸ばしたら、係の1人が何か話し私は振り向いて笑顔で「イエス、イエス」と言い、もう1人がパラシュートを背負っていたまさにその時、ヘリコプターが大きくバウンドして、私は正面の空の中へ飛び込んだ。


 パラシュートは付けていない。降下しながらくるりと体を半回転させ、ヘリコプターを見上げた。扉の前で1人の男性が私を悲しそうな表情で見ていた。

 

 雲の中に入り、ヘリコプターが見えなくなり、私はまた体を反転させて雲の下を覗き込むが、一面の雲の中で雲しか見えない。


 どこまで雲の中を降下してゆき、私は(長いな)と思い眠ってしまおうかと思った時、目の前にさっきの係の人が手足を縮めて丸くなって落ちてきた。


 その人は私の目の前で、両手両足を大きく広げた。ずっとその体勢なので、私も真似をしてその体勢になってその人を見た。


 私の後ろから誰かが私の腰にワイヤーフックを掛けた。それを見届けた目の前の人が、右手をグーに握り親指を立ててパラシュートを開き上空へ上がって行った。

 

 私達もパラシュートが開いたのだろう、衝撃があり背後の人が私の腰をギュッとつかむ手に力を入れた。


 そして一瞬に雲を抜けて一面に街の世界が広がった。大きな川が流れていて、対岸にはオシャレな家が建ち並んでいた。


 空は夕暮れの色の薄く桜色に、雲はなく優しさに染められていた。


 私は「キレイーキレイー」と大声で、身を乗り出して叫んでいたら、背後の人が私の背中をドンとたたいて、私は気を失った。


 気が付くと、地面の上に寝ていた。起き上がり見渡すと、そこは何もないただ草が生えている草原で、少し離れた所にパラシュートを着けた男性も地面から起き上がろうとしていた。


 車が2台来て、私とその男性をそれぞれに乗せた。

病院に着いて、私は自分で歩き診察室へ行き、医師に2、3問の質問を受けて、その女医は優しく笑ってくれて「あなたは大丈夫」と言ってくれた。


 もう1人の男性も歩いて診察室来て、私に気が付くと笑顔をくれた。背の高い、優しい顔の人だった。


 私はかすり傷ひとつもなかった。元空軍の人達のおかげで、空中で生き延びることができた。今でも心から感謝している。


 こうして私は九死に一生を得た。


 私が雲を抜けて見た街は、あの日に夢で見た街だった。その夢から8年後に、その街の上空をパラシュートを付けずに飛んだのだ。


 この話しはまた別に書きたいと思う。



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