第13話─考察から見える可能性
「君の見解を聞かせてくれるかい?」
「……えっ?」
予想外のことにすぐに反応を返せなかった。
「まず、この事についてどう考えているのかが聞きたいの。恐らくあなたは、真相を知ることに執着して色々と段階を飛ばしているわ。状況を整理するためにも、お願いできるかしら」
先生の言葉は的確であった。見えないものに対する不安は自ずと焦りを生み、いつの間にか私は考えることを捨てていたようだ。
「……はい。先生のおかげて私は見失うところでした」
改めて考える。見知らぬ足跡、季節外れの蛙、人為的な疵痕。
「鳥と密猟者って考えたいです、がそれは無いと思います」
「なるほど。それは何故かな?」
「まず食物連鎖を考えたときに、蛙を襲うのは鳥類です。うちの山には、この辺りにしか生息しない鳥類が少々います。そのため密猟者が狙ってもおかしくありません。捕獲するための道具を使うため、または熊に襲われたためにこのように荒れたと捉える事もできます」
私がなぜこの説がありえないと思ったのか、それはある一点の気がかりの存在であった。
「しかし不可解なのです。なぜなら、足跡が
「確かに、それは私も思っていたわ」
「そこから考えられることは……分かりません。これが私の限界です」
結局結論は出なかった。咄嗟に考えたとはいえ、推測の域を出ない答えばかりであった。
「……なるほど、分かったわ。あなたがどこまで知っているかも」
「すみません、中途半端な答えで」
気まずさがひとでに漂い、聞こえてくるのはPCの駆動音だけとなった。空調は整っているが、先生が話しだすまで、気持ち的に少し暑く感じた。
「まあいいわよ。私の見解としても述べられることは少ないのだから。でも……」
先生はおもむろにPCを閉じて、後ろの戸棚から一冊の本を取り出してきた。見たところ、先生の今までの活動記録のようだ。
「私は、それこそ神様の仕業と思ってもいいんじゃないかな」
……え?
「何を言っているのって顔をしてるね。ではこの写真を見てごらん」
開いてみると、まるで心霊写真のような不可思議な光景が次々とスクラップされていた。火の玉をはじめ、宙に浮く物質や謎の人影など、どれも自然の奥深くで撮影されたものだ。
「……先生、これって本当なんですか?」
「そう、全部自然の奥地で見た光景。仕事柄よく山に行くからもう慣れてしまったわ。研究資料にならないから、スクラップにして残しているけど」
「そ、そうですか……」
俄には信じ難いが、そう言われてしまっては信じざるを得ない。加工らしき跡も無く、何よりそこまでして集める理由も先生には無いだろう。
「それに、世の中には知らない事が良い事もあるのよ」
「!」
そう言った先生から放たれる、何とも言えぬ気迫。一種の悪寒とも言えるものを感じ、危険信号が張り巡らされる。
「あら、ごめんなさいね。ちょっと怖がらせたかしら」
「勘弁してください」
あの瞬間だけ、先生は別人のようであった。恐怖を紛らわすように、私はパソコンを閉じた。
「先生、本日はありがとうございました」
「しばらく山に行くのは止めておいたほうがいいわ。とりあえず、杞憂に終わるといいわね」
軽く一礼をした後、私はそそくさと部屋を後にした。
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