第12話─分析開始
少し薄暗い廊下を通り、やってきたのは件の研究室。私自身、ここを訪れるのは初めてである。
このフロアの一階に鎮座し、異様な雰囲気を前々から感じていたが、意を決して扉を叩く。
「どうぞ」
帰ってきたのは聞き覚えのある女性の声。流れに沿うように私は扉を開いた。
中で迎えたのは、眼鏡を掛けた中年の女性、この部屋の主の松原瑞代であった。
「失礼します。2年自然環境科の彩羽です。先日連絡させて頂いた通り、お聞きしたいことがあって参りました」
中は意外と普通の研究室と大差なく、私の予想とは少し違った。ただ少し広い部屋は、先生の雰囲気も相まってゆったりとした空間を醸し出している。
「そうだったわね。とりあえずこちらにいらっしゃい」
私は案内された椅子の元に腰掛けた。ふとテーブルの上の観葉植物に目が向いてしまう。幹が8の字を形成していて面白い形をしている。
「これは何の植物ですか?」
「実はそれ、名前が分からないのよ。山梨の方に行ったときに、今にも枯れそうだったから保護して持ってきたものなのだけどね」
「なるほど、面白い形だったのでつい」
8の字の穴はまるで何かを見透かすように見えたが、気のせいだろう。やはり緊張はまだ解けてない
「そうよね。さて、まずは写真を見せて頂戴」
私はパソコンを起動し、研究室のスクリーンにスライド形式で写真を映した。状況証拠として、一連の出来事を電波が届く限り残したものである。
「こちらが、先日私が見た件の足跡です。そしてこちらが、
あの日聞こえた季節外れの蛙の鳴き声。それに釣られてやってきた先で見えたもの。否、
草土が掘り荒らされ、木々には生々しい傷痕。辺りに散らばるのは数多の蛙の亡骸。ほとんどが腸をぶちまけられており、事の凄惨さを物語っている。
「なるほどね。次に進んでくれるかしら」
一瞬先生の目つきが変わったが、構わずスライドを進める。
「こちらが我が家が所有する山のマップです。私と妹は普段、南側の御木広場から山に入ります。そこからは東と西で二手に別れて登る事が出来ます。当時私は東側、妹は西側から登っていました」
マップには普段の私達の軌跡が赤く示され、所々に風景写真が現れていく。
「登山開始から約40分、本来は来た道を引き返しますが、この日はそのまま道を進みました。マップに映る通り、この先は他からは見えづらいちょっとした広場となっております。ここで事件が起こりました」
一通り説明したところで、先生から一つの質問がやってきた。
「そこは今までに行ったことがあるのかい?」
「はい、定期的に何度か訪れます」
なるほどと呟いた後に、先生は何処かに連絡をし始めた。想定より質問の数が少ないのが気にかかるが、次のスライドの用意をすることにした。
「……はい、失礼します。すまないね、ちょっと確認していたもので。続けてくれるかしら」
「はい。実のところもう終わりも近いのですが、次にいかせてもらいます」
モニターに映し出されたのは、登山グッズの品々。当時私が持っていたものである。
「ここからは補足ですが、これが当時私が装着していた品々です。登山中は画面中央のレシーバーを使って10分置きに連絡を入れ、安否確認をしています。あと発振器です。低精度ですが、いざというときのために常備しています。他は山において基本的なものなので割愛します。以上で終わります」
「ふむ、分かった。ではまず」
これにて発表は終わったが、ここからが本題である。山を識る先生がどのような見解を述べるのだろうか。私の心配が杞憂に終わるのか、はたまた──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます