第二幕 迫る影 交錯する思惑

第11話─高等専門学校 / 始動

『高等専門学校』

 一般的に高専と呼ばれるこの学校は教育課程5年、高等学校の教育を受けつつもプログラミングや、設計や建築などの専門分野をカリキュラムに取り入れた学校である。

 

 その殆どが国立であり、高専自体が一つのネットワークを形成している。その中で決められる実践的なカリキュラムや高い教育制度は企業からも評価され、多くの高専で高い就職率を誇る。

 

 各高専がおおよそ5つの学科を設立し、入学試験を突破したものがその成績に応じて希望の学科に配属され、仲間たちと5年間苦楽を共にする。

 

 かくゆう私、「彩羽楓」も高専生の一員である。花栄高専自然環境工学科に所属し、測量や地質調査、時には造波実験などを行い、環境に関わる事象を工学の面から学んでいる。

 

 余談だが、私達は3年生までは高校生であるが、身分は「生徒」ではなく「学生」にあたる。その理由として、高専は大学と同じ高等教育機関に分類されるからだ。だからといって、何か特権があるわけではない。

 

 近年は校内の雰囲気も一昔前とは打って変わり、普通の高校と大差ない所も多い。しかしそれでも、高専にはどこか変わった人が集まるのもまた事実である。

 

────────────────────

 

 昼休みも中盤に入り、段々と校内に喧騒が戻ってくる。昼食を済ませた私は、先日の出来事について再び思考を張り巡らせていた。

 

 あの時見た足跡は、明らかに人が山に入っていったときのものだった。しかし入り口は門に塞がれて、周りも人が入れるような領域は存在しない。

 

 何か手がかりが無いかとマップを開いていると、後ろから誰かが肩を叩いてきた。

 

「うぅ〜、最近なんか暗いよ楓ぇ」

 

 後ろを振り返ると、そこには千那が立っていた。

 

「そ、そう?」

 

「うん。全然私の話に乗ってくれないじゃん」

 

 えいっ、と千那が私に背中に乗っかってきた。ふわりと少し、梔子のような香りが辺りを包む。思えば最近色々なことがたて込んで、あまり千那に構えなかった気がする。

 

「ごめんね。最近色々あって」

 

 私は千那を丁寧に下ろして、何とか背中の自由を手に入れる。

 

 事件が起こった山菜狩りから3日が経つ。あのあと山に管理業者が入ったかどうか両親や役所に確認したが、一切無かったという。

 

「楓いつも大変そうだもんね。またお店で何かあった?」

 

「ううん、違うよ。ちょっと山の方でね」

 

 母は気にしなくていいと言っている。私としても現に実害は出ていないが、それでも不安が残る。

 

「んー山かぁ。私は全然知識ないけど、山のことならあの先生に聞いてみたら?」

 

「あの先生って誰?」

 

 私は千那に聞き返した。すると千那は携帯を取り出し、校内マップを開いた。千那は、少し広い部屋を指差した。

 

「ここ、この研究室の先生。名前は確か、松原 瑞代まつばらみずよだったっけ」

 

「あぁ、あの先生ね」

 

 確かこの先生は、昔からこの学校に勤めるベテランである。日本の植生や樹木の分布などの研究をされており、各地の山々に赴いていたはず。

 

 一年の前期、私達の理科の先生でもあるため、面識が無いわけではない。

 

「なるほどね、確かにあの先生なら山について詳しいかも。ありがとう千那」

 

「へへっ、どういたしまして」

 

 私なりに気になる点もあるため、その先生とコンタクトを取ることにした。チャットを送ってから30分程で返信が来て、明日研究室を訪ねることになった。

 

「これで何か少し分かったらいいな」

 

 そうと決まれば、明日までに資料をまとめなければならない。長い作業になる事を見越し、少しばかり徹夜の覚悟を決めた。

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