弐─神々闇溶

逢魔時、祠に佇む物陰。森は闇を纏い始め、鳥獣は鳴りを潜め、凪のような異常な無音辺り一帯を揺蕩う。

 

「……『カエデ』の血筋も途絶えず……か」

 

 先刻の記録の前に唯響く独り言。どこまでも響くような静けさに伝う。

 

 そのとき祠に集う僅か六匹の蛙、時同じくして輪唱す。それを聴く者、静かに耳を傾ける。

 

「……そうか、そろそろやつらが……」

 

 希望とも諦観ともとれる声色は、降りた夜の帳に溶けていった。

 

「……頼むぞ、いずれ彼女たちは……」

 

 その物陰が動くと同時に、六方向に散っていく。僅か一分程の輪唱は泡沫のように消えていった。

 

「……さて、儂にも協力者が必要か」


 そう発した声の主は、再び夜の森の闇に消えていく。虚空から虚空へ。


「……頼むぞ、神草よ」


「あら、分かっちゃったか」


 代わりに現れた人物は、表手おもてに踊る。


「……お主じゃろ、儂にを渡したのは」


「まあね。彼女たちとは昔から、ね」


 暫し続く沈黙、破りしは闇の先。


「……どうも儂は、お主のことが掴めぬ……」


「世界のことわり、いわば『絶対』であるあなたでは、日々万変する人間なんて理解出来ないよ」


 不敵に嗤う彼女に、僅か靡く風が小突く。


「でも人は、『絶対』のあなたを理解する事は出来ない。その日は決して来ない。例外を除けばね」


「……そういうことか、お主は……」


「ふふっ、まぁ必要に応じて動きますよ」


 この言葉を最後に、彼女はふっと消えていった。


先程まで在ったもの、表手にはもう無いもの。今までの閑話はまた一つ、夢幻のように消失せる。

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