第10話─風向きは変わる

約束の時間となり、私は御木広場へ戻ってきた。広場に着いたときには、姉の姿は見当たらなかった。三時半辺りから声色に揺れを感じ取って以降、かすかな不安が私の頭を掠めていた。

 

 ベンチに座り姉を待つ。ほのかに雨の匂いを感じた。大気が湿度を高め、山が脈々と呼吸をする感覚。山特有の天気の変わりやすさ、何度も翻弄された私の勘。普段の私ならこの対話もまた一興。しかし姉が戻らぬ今、心中穏やかではいられない。

 

「注意した本人が足を滑らしていなければいいのですが」

 

 姉が広場に戻ったのは4時過。帰ってきた姉を見つけたとき、私は少し安堵した。しかしその不安が晴れることはなかった。視認的に怪我は見られないが、どこかぎこちない足取り。多少精神的な負荷を負っているように視える。

 

 姉は私を見つけるなり、必死に駆け寄りこう言った。

 

「椛、椛は本当にこっちに来ていないよね?」

 

「はい。そちらの陣地には入っていません。」

 

 事実を確認した姉の顔色が変わった。

 

「この山に、何かがいる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る