第9話─露も落ち葉も山模様
さく、さくと落葉した山道を進む。周辺は
「ココらへんに、あった。ゼンマイ3つ」
「うわ、ツキヨタケか。今年も出てきちゃったかぁ」
「この時期だとミズがあるはずだけど」
慣れ親しんだ山道を東に進みながら次々と山菜を籠の中に入れていく。今日は良くも悪くも微妙な感じだ。勝負に勝てるかと言われると言葉に詰まるが、植生としては問題ない感じである。元より簡単な植生調査が発端の勝負なので、そっちのほうが重要である。
それにしても、今日はやけに体が重い。
「最近雨が多いからなぁ。足が持っていかれているかも」
元より今日は秋雨前線が猛威を振るう十月初頭。山全体が水を纏い、冷気がじわじわと体力を削っていく。水を吸って重くなった籠を背負うのは慣れているが、足元はぬかるみ滑りやすい。
「椛も足をとらせなければいいけど」
勝負とはいえさすがに彼女の身に何かあってはいけない。時計を見ると、あれから20分経過していた。私は懐からトランシーバーを取り出した。トランシーバーは椛と二人でこの山に登る際、必ず携帯している。
勝負を行うにおいて、10 分置きの定期連絡をするための手段として使用している。
「あっ…あー椛、そっち足元大丈夫?」
しばらくして椛から応答が帰ってきた。
「はい、現在傾斜が緩やかな所を移動中。どうぞ」
椛の声がトランシーバーから聞こえた。声もはっきりしているので特に問題はなさそうだ。
「そう。東の方道がぬかるんでいるから気をつけて」
「了解。お姉さまの様子は?」
「こっちは足元が少し危ないかも」
「左様ですか。お姉さまもお気をつけて」
私はトランシーバーを再びバックに戻した。椛の様子から、西側はさほど荒れているのではないのだろう。互いの安否を確認できた所で、再び足を進める。
その瞬間、私は足を滑らしてバランスを崩した。
「うわぁ!」
咄嗟に受け身を取り、最小限の衝撃に抑えて地に伏せた。注意した本人が早々に転ぶとは情けない。
「危ない危ない、ここが崖でなくてよかった」
改めて神様に感謝した。立ち上がると微かに蛙の鳴き声がした。この時期にいるとは珍しい。きっと秋雨前線につられて出てきてしまったのかもしれない。
「もっと気をつけなくちゃ」
再び気を引き締めて、私は足を進めた。
先程のハプニングから約一刻、それぞれ大きな出来事なく山菜を取っていった。
「今日はまあまあかな。もしかしたらいけるかもなぁ」
ひとりそう呟く尾根の中腹、熊除けの鈴が響く午後三時四十分前。そろそろ頃合いになろうとするときに、私のまえにそれは現れた。
「あれ、これ……は、えっ!」
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