第3話─秋の朝、カエデの知らせは
a.m.6:30
軽快な音楽が部屋の中で鳴り響き、私は目を醒ました。意外にも寝起きは良く、朝冷えにも慣れてきた10月下旬。私の家は比較的高地なため、この時期は少し寒く私を布団に留めようとするが、いつものことである。
「ふあぁ〜っ それでも冷えるなぁ」
温暖化で平均気温が上がっていると世間は言うが、私の街ではお構いなしである。欠伸を噛み砕きながら着替えを済ませ、私はリビングに向かった。
朝食は家族揃って食べるのが我が家のポリシーである。そのため私が起きる頃には皆が揃っていることが多い。今日も変わらず私が最後。
「おはよー」
私はいつもの私の席に着く。既にテーブルには、ごはんと目玉焼きが私の前に並んでいた。隣で椛は携帯を見ていたが、私に気が付くとすぐに止めたようだ。
「おはようございます、お姉さま」
ちなみに、椛の姉さま呼びの由来は私も知らない。昔はお姉ちゃんと呼んでいたのだが、いつしかかしこまってしまった。まあ悪い気はしないから良いのだが。
「二人とも今日は傘を忘れずにねぇ」
「はいはい〜」
テレビの天気予報を見ると、今日は午後から雨が降るらしい。近々台風が近付いていることもあって程度が心配だ。しかしそんな私の心配を他所に椛が一言こう言った。
「お母さま、私の勘ですが雨は夜から降ると思われます」
「あらそう?あんたが言うならそうなのかもねぇ。はい、これ味噌汁」
母は全く驚いてない様子でそう言った。対照的に父は少し驚いている。
「そうなのか?なら少し予定を変えてもいいな」
椛の予言はよく当たるが多い。神草と似ているが椛は唐突である。少し虚を突かれる父と私、いつもの調子の母、これが我が家の日常ではある。
「それなら椛、今日は部活ある?」
朝食のごはんを片手に、私は問いかけた。
「今日はありませんね。木曜日はいつも休みなので」
「お店が始まるまでちょっとばかり時間もらえる?」
「大丈夫ですよ。また、あれをやりますか?」
「そうそう。じゃあ店の前集合ね」
少し不敵な笑みを浮かべた椛の顔。それに対抗する私の目。自然と戦いの前哨となるべく朝食に、あるニュースが流れてきた。
『先日、人間国宝の
(松浦鞏星?) 見知らぬ名前に姉妹揃って首をかしげる。しかしその渋さ溢れる老人に、意外にも母が反応した。
「あら、先生仕事から帰ってきたのね」
「えっ!お母さん知り合いなの?」
思わぬ情報に驚き、咄嗟に私は母を問い正した。
「ちょっと昔に先生の娘さんと知り合ってね、そこから少しお世話になったのよ。先生の開催する短歌の会に参加したのがきっかけだったわね。」
確かにリビングには、昔母が短歌の大会で賞を貰った時の写真が飾られている。母の意外な人脈に驚きつつも、椛が一つ母に問いかけた。
「先程母の言った、帰ってきたとはどういうことですか?」
「確かに。テレビでは行方を眩ませていたって言ってたけどどういうこと?」
すると母はコーヒーカップを置き、こう言った。
「私も詳しくは知らないけど、世界中を飛び回っていたらしいわよ。娘さん曰く、放浪らしいけどね」
「なるほど。あれほどの人なので何が深い事情があるのではと思ったので」
「先生私より何するか分からない人だからねぇ。とにかく元気そうで良かったわ。さ、食べましょう」
朝から中々なニュースが飛んできたが、何気ない朝を過ごせそうだ。
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