第4話─千那と伽耶


 いつも通り学校に着く頃には、すでに校内は賑わいを見せていた。敷地面積は広く設備も多い学校なため、始めの内はなんど迷ったことか。

 

 もうすっかり慣れた道を通り教室へ向かう。入って早々、何者かが私に思い切り抱きついてきた。

 

「おはよ楓!」

 

「お、おはよう、千那。とりあえず離れて」

 

 私より少しばかり背がちっちゃく、栗色の髪をなびかせている彼女が友人の櫛並千那くしなみちなだ。千那はここに進学してから初めての友達であり、とても人懐っこい。故に毎日この調子だ。

 

「ふふっ、肩に紅葉が乗ってるよ。もうすっかり秋だね」

 

「そうだねっ。千那は秋好き?」

 

「秋は嫌いじゃないけど花粉だけは嫌かなぁ」

 

「はいはいそこまで。一部の男子連中が来る前に離れなさい」

 

 そう言って来たのは私のもう一人の友達の市伊伽耶いちいかやだ。

 

「おはよう伽耶。今日は早いね。ほら千那は離れなさい」

 

「おはよう楓。」

 

 伽耶も千那と同様、この学校で出会った友達の一人だ。伽耶は逆に私より少し背が高く、顔も美形である。堅実な雰囲気も相まってクラスのまとめ役を務めることが多いが、そつなくこなす様子から彼女の性に合っているのだろう。

 

 彼女曰く、私と千那は一部の男子から百合コンビとして見られることがあるらしい。些か不本意ではあるし、そいつらの気持ち悪い妄想に合わせる気はないので気をつけてはいるのだが。

 

 やっと私から離れた千那がこんなことを言い出した。

 

「そういえば今朝のニュース見た?」

 

「今朝ってあの人間国宝の人について?」

 

「そうそう。あの人の画像見て思ったけどさ、あの人楓に似ているよね?」

 

「えっ?私あの人と直接の関わりないよ。それに私おじいちゃん別にいるし」

 

 そう言って携帯のフォルダから祖父の写真を見せた。件の人物とは似つかない、温厚で優しい人物が映っている。

 

「へぇ〜。なかなか愛嬌ある人だね。でもそうじゃなくて雰囲気。なんとなくだけどそう感じたんだ〜」

 

 千那まで椛みたいなことを言い出して、少しばかり困惑する。動揺からか、私の携帯を落としそうになる。

 

「そ、そう。伽耶はどう思う?」

 

 私は携帯で二人の画像を並べて伽耶に見せた。伽耶はじっくり見たあとに

 

「私は別に思わないかな。強いて言うなら目元? 画像見る限りだけど」

 

「ふぅーん。私ってそう見えるのかな? まあ悪い気はしないからいいけどね」

 

 友人からの思わぬ発言に戸惑いつつも、なんとか。

 

「まあいいや。それより楓〜課題教えてよ〜?」

 

「はいはい分かった。分かったからカバン取らせて」

 

「仲良いねぇあんたたちは」

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