第4話
それから俺は、何が何だか判らないが、それでもともかく腹は減るし、茶は飲みたいのでいったん外に出た。
街には見事なまでに男ばかりだった。
俺が知っている街角とは確実に彩りが違う。
たまに見掛ける女は、スカートも足首が見えるくらいに短く、腕まくりをして豪快に男に交じって仕事をしている様な既に四十を越えたおばちゃんばかりだ。
いやそれでもそのスカート丈はおかしいか。
ともかく俺の知っている女達の歩き方とも違う。
どたどたと力強く足踏みをし、時には丁々発止の口論をしている。
そこには色気もへったくれもない。
ともかく食事をしようと店に入る。
夕方から夜にかけての店だ。
銀盆を持って注文を取りに来るのは男。
カウンターの向こうから料理を出すのも男。
そしてちょっと向こう側を見ると、小柄で整った青年を侍らせている男も居た。
もう至るところ、男、男、男。
俺の知っているこういう店はそういうことはなかったはずだ。
大概可愛い女の子もしくは綺麗な女が胸の谷間を強調した様な服で色っぽく注文を取りにきて、それがまた一つの楽しみだったはずなんだ。
だがそんな気配はまるでない。
せいぜい今注文を取りにきた青年が、やや整った顔だったかな、と思う程度だ。
「お待たせしました」
出てきた料理は記憶にあるそれまでのものと代わりはしない。
ビールの味も変わりはしない。
ただひたすら、女が居ない。
*
そんな日々が数日続いた後、俺はふと、病院に居るというウルスラ・サロイネンのことを思い出した。
そう、彼女は俺の記憶によれば、……そもそも、俺は彼女と一緒になりたくて、エディットと婚約破棄をしたかったのだ。
俺の記憶では、まだエディットとは結婚はしていなかった。
結婚前だったから、政略結婚で愛の無い彼女ではなく、貧乏男爵令嬢でも、俺のことを愛してくれるウルスラと結婚したくて、機会があれば皆の前で婚約破棄を告げたかったのだ。
だがマウリッツの言うことには、俺はどうもウルスラと一定期間付き合ったが、やっぱり種無しと断定されて別れたらしい。
そしてそのことを黙って俺はもともと家同士の契約で婚約者のエディットのもとに「嫁した」ことになる。
ウルスラは今どうしているのだろう。
俺はサロイネンの家に連絡を取り、ウルスラの現在の居場所を長男に問い合わせた。
すると彼からはこんな手紙が来た。
「そうか君も種無しということで用無しとなったんだね。
まあ君の行状はウルスラから聞いていたから、仕方が無いとは思うが。
ウルスラは今は郊外の病院で療養しているよ。行って会う勇気があるならば、会ってみるがいい」
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