第50話 檻の中の花
「助けに来たのだが……あー、やっぱり必要なかったか?」
鉄格子の向こうのレンカを見やり、カイムが困ったように頭を掻く。
裸で震えるレンカであったが……その顔は発情した動物のように情欲に満ちている。
明らかに男達に視姦されることに興奮していたように見えるが……助けに来たのは余計なお世話だったのだろうか?
「……貴様のせいだ」
「あ?」
「貴様のせいだ……貴様と会ってから、私はどんどんおかしくなっている……!」
レンカは悔しそうに表情を歪めて、そんなことを言ってきた。
「私はこんなふしだらな女ではない。それなのに……貴様と会ってから、あの洞窟で口づけをされてから……私はおかしくなってしまった。裸にされて男達に嘲笑われているというのに、それが嬉しくてたまらない。もっとメチャクチャにして欲しい。もっと嬲って欲しい……そんな風に願ってしまう。これも全部全部、貴様のせいだ! 貴様と出会うことがなければ私はこんなふうにならなかったのに……!」
レンカが涙を流しながら訴えてきた。
それは高潔であるはずの女騎士にとって、血を吐くような苦痛を伴う告白だったに違いない。
彼女は間違いなく清廉で真面目な騎士だった。
しかし……あの洞窟で盗賊に媚毒を飲まされ、さらにカイムが体内で生成した薬物を摂取したことにより、心の奥底に隠れていた性癖を発現してしまったのだろう。
真面目な女騎士であるはずのレンカには……否、真面目に己を律していたからこそ、深い場所に抑圧されていた欲望が存在していたのだ。
「お前……洞窟のことを思い出したんだな。俺にキスされたことを。解毒のために薬を飲まされたことも」
「私に何を飲ませたのだ……お前があんなことをしなければ、私は理想の自分でいられたのに。高潔な騎士でいられたのに……!」
「……それは理不尽だな。文句があるなら死んだ盗賊共に言ってくれ」
カイムはうんざりと首を振る。
確かにカイムはレンカに薬を飲ませた。しかし、それは媚毒に冒された彼女達を救うためである。
仮にカイムが何もしなかったとすれば、レンカもミリーシアも抑えきれない快楽に発狂してしまったことだろう。盗賊が二人に飲ませたのはそれほどまでに強力な毒薬だったのだから。
「えーと……カイム様、そこに鍵がありますわ」
カイムの後に続いて地下室に降りてきたティーが、気まずそうな顔で壁に立てかけてある鍵を指差した。
レンカと目を合わせようとしないティー。発情した女騎士の告白を聞いてしまい、何もしていないのに悪い事をしてしまったような顔になっている。
「……とりあえず、さっさと牢屋を出るぞ。ミリーシアも助けなくてはいけないことだし。時間が惜しい」
カイムは壁に掛けてあった鍵を使って牢屋を開ける。
へたり込んで涙を流しているレンカに手を差し伸べると……レンカがカイムの腕を引き、そのまま口づけをした。
「んぐっ!?」
「んんっ……責任を取れ、責任を取って……私のことを蹂躙しろ……!」
「…………」
抑えきれない情愛に瞳を燃やし、レンカが訴えてきた。
カイムは助けを求めるようにティーの方を見るが……虎人のメイドは弾かれたようにカイムから視線を背ける。
「てぃ、ティーは何も見てませんわ! 何も知りませんのっ!」
「裏切者……」
「は、早く私を押し倒せ! 私のことをグチャグチャにしろ!」
「馬鹿だろ、お前。いや……やっぱり馬鹿だろ」
カイムは呆れ返って表情を歪め、力任せにレンカを引き剥がした。
「ああっ……」
「状況を考えろ、淫乱馬鹿野郎め。お前の大事なお嬢様を救出する方が先だろうが! ミリーシアを助けて安全な場所に脱出するまで、お預けだ、お預け! ステイ!」
「お預け、それはそれで犬みたいで嬉しいかもしれない…………わん」
「…………」
この女はもうダメかもしれない。
カイムは『お座り』をした犬のような姿勢で見上げてくるレンカに、そんなこと思ったのであった。
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