第40話 船旅
女性陣三人と話をつけ、カイムは帝国にわたるべく大河の沿岸にある船着き場に向かった。
船着き場につくと、目的の船に大勢の人間が乗り込んでいる。
まだ出航までには十分な時間があったが……出航に遅れないように早めに船に乗り込んでいるのだろう。雇われた労働者や奴隷、船乗りが木箱に入れられた荷物を船体へと運びこんでいる。
「おお……これは大きな船だな! こんな船、初めて見たぞ!?」
カイムは港に着けられた船を見上げて、感嘆の言葉を吐いた。
それは大型の客船である。
百人以上は余裕で乗ることができるであろうサイズ。穂先には竜の頭のような像がつけられていた。船のあちこちに華美ではないものの、下品にならない程度に装飾が施されている。
船のデッキには風を受けるマストや帆はついていない。どうやら、船体の下部分に魔道具がつけられており、組み込んだ魔石の魔力によって水を掻いて船を進める構造になっているらしい。
カイムも船を見たことはあるのだが……せいぜい川や湖で魚を獲るための漁船くらいのもの。こんな百人以上もの人間が乗り込める船なんて、目にするのは生まれて初めての経験だった。
「この船は二隻ある定期船の一つで『ポリュデウケス号』と言います。姉妹船である『カストール号』と合わせて一隻ずつを、大河を挟んだ二つの町の領主が所有しています。他にも小型の船が行き来してますが……大河には水棲の魔物も多いですから。これくらい大きな船でないと安全性に不安があるのです」
「へえ、確かに水上で襲われるのは脅威だな。船に穴を開けられちゃ敵わない」
ミリーシアの説明にカイムはうんうんと首肯する。
カイムとて陸上の敵であれば誰にも負ける気はしないが、いつ沈んでもおかしくない船の上では十分に力を発揮できないだろう。
「この船には魔物避けの魔法がかけられていますから、心配はいりませんよ。この大河には海賊なども出ませんし。夕刻までには何事もなく対岸にたどり着くはずです」
「おいおい……そこまで安全性を強調されるとかえって不安になってくるぞ? 何かの
カイムは苦笑しながら、率先して船に乗り込んだ。後にミリーシアとレンカ、ティーも続いてくる。
まさか本当に魔物に襲われたりすることはないだろう。いくらカイムが出奔してからトラブル続きとはいえ、そこまで災難に恵まれることはないはず。
船の内部には大部屋と個室があるのだが、俺達がチケットを取ったのは大部屋である。
個室はチケット代がとんでもなく高価で、一ヵ月前には予約が必要だった。一部の貴族や豪商くらいしか利用するものはいない。
それから、予定通り正午ピッタリに船は出航した。
魔法の動力によって動いている大型船が、大河の対岸にある帝国に向かって進んで行く。
カイムは初めての船旅に心を躍らせ、大部屋の船室からデッキに出て、船から見える風景を楽しんでいた。
周囲には同じように景色を楽しみ、風を浴びている乗客がいる。天気も良くロケーションも最高。絶好の船旅日和である。
だが……船の出航から数時間後。
「やはり」というか「予想通り」というか、そのアクシデントは起こった。
「おい、アレを見ろ! 上だ!」
「空賊だ! 空賊が出やがったぞ!」
船員が頭上を指差している。
カイムが動きにつられて頭上を見上げると……そこには空を背にして、十数人の人影が立っていた。
「空を飛んでいる……アレは人間なのか?」
「鳥人ですわ、カイム様! 鳥の獣人ですの!」
一緒にデッキに出ていたティーが叫ぶ。
船を包囲するようにして旋回しているのは人間の胴体と鳥の頭、背中に翼を生やした異形の人型だった。手には槍や弓矢などの武器を持っている。
人間と鳥の両方の姿を合わせた彼らの名前は『
翼をはためかせた鳥人の空賊によって、船が襲撃を受けようとしていたのである。
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