第39話 姉妹
結局、カイムとティーはそのまま連れ込み宿で一夜を明かすことになった。
カイムと激しいキスを交わしたことでティーがまたしても昂ってしまい、何度となく身体を重ねることになってしまったのだ。
カイムは一晩かけてティーと絆を深め……延長料金も含めて多めに宿賃を払い、朝一番に連れ込み宿を出た。
そして……ミリーシアとレンカが泊まっているであろう宿屋に戻ったのである。
「二人とも……随分と遅かったですね、本当に」
「おいおい、今度はお前がヘソを曲げるのかよ……勘弁してくれよ」
借りていた部屋に入るや、ベッドの上に座っていたミリーシアがジロリと睨んできた。
まだ早朝なのだが、早起きをして待っていたのだろうか? それとも……まさかとは思うが、一晩中、寝ないでカイムの帰りを待ち構えていたのだろうか。
カイムは確認する度胸もなく、この部屋にいるもう一人の人間――レンカに視線を移した。
「昨日は悪かったな、旅の準備を任せてしまって。そっちは問題なかったか?」
「ああ、お嬢様がずっと不機嫌だったが……他には特に問題はなかった。すぐにでも出発できそうだ」
「それは何よりだ。さて……そっちのお嬢様も機嫌を直してくれると有り難いんだがな」
「…………」
ミリーシアはカイムの言葉に答えることなく、部屋の入口に立っているメイド服の女性――ティーに顔を向けた。
「……ティーさん、でしたよね? カイムさんと仲直りはできましたか?」
「がうっ! お気遣いは感謝しますわ。昨晩はとても素晴らしい夜でしたの!」
「それは良かったです……これから、一緒にカイムさんを支えていきましょうね?」
「言われるまでもないですわ。不承不承ではありますけど、貴女のことも認めてあげますの!」
「認めるのは私の方ですよ? 私が正妻ですから。強い殿方は複数の女性を侍らせるものですから……貴女のことも認めてあげます」
「がうっ、どっちがカイム様の一番かはこれから勝負ですわ!」
ティーとミリーシアはそんな会話をして頷き合った。まるで激闘によって友情が芽生えた
カイムにはその遣り取りの意味は分からなかったが……ミリーシアは機嫌を直したらしく、ベッドから立ち上がった。
「それじゃあ……出航の時間には早いですけど、もう船着き場に行っておきましょうか。遅くなって乗り遅れたら大変ですから」
「ああ、それはいいんだが……」
「カイムさん? どうかいたしましたか?」
「…………」
顔を覗き込んでくるミリーシアにカイムはたじろいだ。
何故だろうか、カイムには和気藹々となった空気に胸騒ぎがするのを感じた。
考えても見れば……この場にいる三人の女性、その全員がカイムとの肉体関係を結んだ『姉妹』なのだ。
とんでもなく稀有で貴重で、ふざけた状況のような気がした。
(何故だろうな……ものすごく恐ろしくなってきたぞ。俺はこんなメンバーで旅をして、帝国に渡ることになるのか!?)
『毒の女王』と融合して『毒の王』となり、『拳聖』という人生最大の宿敵を倒して。
もはや怖いものなしになったはずなのに……どうして、今さらこんな恐怖を感じるのだろうか?
どれだけ強くなったとしても、男という生き物は最終的には女の尻に敷かれることになるのかもしれない。
「どうかしましたか、カイムさん?」
「カイム様、行きますの」
「ああ……」
ミリーシアとティーの言葉に頷いて、カイムは宿から出て行った。
四人は並んで歩き、帝国を目指して船着き場に向かう。
男一人に女三人。
ある意味では夢のような状況。他の男から羨望の目で見られるようなシチュエーションなのだろうが……カイムはそんな旅路に激しい不安を感じた。
その不安は予想を大きく上回って的中することになるのだが……それは神のみぞ知っている未来である。
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