約束の法
◆だいなしキツネの隠された素養
だいなしキツネの最終学歴は、法務博士だよ。法律実務について専門職大学院を卒業したんだね。あれこれ検討した結果、結局法務を仕事にするのはやめたものの、その経験は役に立っている。
キツネはもともと大学で文学や哲学を専攻していたのだけれど、法学に分野を鞍替えしてからは、論理展開と文章表現の明晰さを重視するようになった。哲学書って、明晰さを欠く場合が少なくない。その点、法学書や法律文書は一読了解を旨とするからね。気持ちがよかったよ。
◆法学は論理的か?
もっとも、キツネは哲学専攻者だから、法学の分野が本当に論理的かと問われると首を傾げざるを得ない。法律の業界には法的三段論法というのがあるんだけど、この活用が事実上正解だと勘違いしている人が多いんだよね。古代ギリシャ思想を少し学んでいれば分かるように、三段論法のうちの大前提の正しさを人間は論証することができない。何かを正しいというためにはそのための判断基準が必要だけど、その判断基準が正しいかどうかを判別するためには別の判断基準がいるから。つまり無限後退だ。法律分野の人たちは、この無限後退を理解せず、特定のドグマを正しいと妄信していることが少なくない。法務を避けたのは、これに嫌気が差したというのが一番大きな理由かもしれない。大学院は卒業したものの、それ以上は勉強に身が入らなかったんだね。
◆近代立憲主義
とはいえ、いま何に役立っているかというと、一つは憲法の理解だ。キツネは近代の立憲主義的憲法こそ、人類が発明したものの中で最も偉大だと思っている。何故かって、これは明らかに自然の摂理に反するから。動物的本能に反してでもなお人類は人権を相互に尊重し、平和的に物事を解決しなければならないという理念を謳っている。これは近代を迎えなければ達成されなかった人類の成果だ。
面白いのは、近代立憲主義が人権を自然権だと表現していること。つまり、人権は人間が生まれながらにして当然に持っている自然の権利なんだね。まぁ、そんなわけないってことは、現に人権が保障されない人がたくさんいるという事実ひとつとっても明らかだ。にもかかわらず、これを自然権であると表現したのは、論証の外部に追いやるため。そう、無限後退の困難に晒さずに、人権を所与の大前提だとした上で国家とか社会とかを考えていこうというんだね。
◆約束が好き
最も大切なものこそ、論証することができない。それは、論証するのではなく、約束するものなんだ。この大切なものだけは確固として〈約束〉し合おうという精神。これが立憲主義的憲法なんだよ。
大前提をドグマとして妄信するのは気持ちが悪いけれど、大前提を約束し合い、確認し合うのは素敵なことだ。
というわけで、今日はキツネの隠れ好き要素を披露したよ。物語の中でも、約束の場面にはグッとくるよね。
それでは今回のお喋りはここまで。
また会いに来てね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます