読み方あれこれ

◆ご挨拶

こんにちわ、だいなしキツネです。

今日は読み方について考察していくよ。


◆読み方あれこれ

良書悪書の区別なく何でも読み耽る人を濫読家という。この世につまらない本などないと言い切る。これはキツネたち読書家の憧れの的だけど、実際には到達できない偶像でもある。時間が足りないんだわぁ。


そこで、大抵の読書家は己の読書スタイルを確立し、それに従った読書をする。

どういう本を選ぶかは、さほど考察を要しない。興味があるか、必要にかられたか。

探し方にはテクニックがある。有識者に聞く、書店を頼る、参考文献を当たる、図書館で片っ端から借りる……。

ここで考察したいのは、どういう読み方をするかだ。キツネが思うに、読み方は大きく三つに分かれる。もちろん独断と偏見だ。


一、印象タイプ。

読書は自分のためだけにしていい。書物が自分に与えた印象、影響を重視するのが印象タイプだ。多くのひとがこれに属するだろう。ビジネス書や啓発書を読みまくるひとは、蓄えた知識や意欲を自分のビジネスに活かそうとしている。娯楽小説を好んで読むひとは、社会生活におけるストレスを発散しようとしている。

この場合に重要なのは、作品が自分にとってどういう価値を与えてくれるかだ。道具的価値、気晴らし的価値、色々。このタイプにおいては、読書は漠然とした行為であっていい。読んだ本の感想を聞かれても「役に立ちそう」とか「楽しかった」程度で構わない。

多読派の読書家にもこのタイプが少なくない。Amazonのレビューでは頻繁に目にするだろう。著名な知識人にも見受けられる。

印象タイプの読書はある意味で純粋だ。読書を自分の生活の歯車とすることも、自分自身を見つめる縁とすることも、そのひとの生の実践において掛け替えのない意義をもつ。

このタイプを文学的に追求したのが、印象批評だ。印象批評とは、客観的な基準によらずに自己への印象に基づいて作品を直観的に論じようとするものだね。実はこれ、現代の批評理論においては批判されがちだよ。でも日本には印象批評が多いとも感じないかな?

実は、日本には印象批評の大家、小林秀雄がいる。彼は印象批評を通じて客観的な基準では到達できない異境に達してしまった。「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない」という言葉が有名だ。何だかよくわからない。けれど格好良い。印象の印象みたいな話になって、これが多くのひとを惹きつけた。自分への影響を掘り下げて、誰も知らない世界に行くというのは、創作と批評の合いの子だろう。もっとも、この場合は作品の構造や文脈には大してこだわらないことになるので、作品論というよりは自分語りだと弁えた方がよいかもしれないね。


二、批評タイプ。

上記の印象批評を除くと、批評に臨むひとは大抵、作品の主題と、構造と、歴史的社会的文脈を重視する。作品の主題は実際に書かれた作品によって特定されるから、作家の意図とは関係がない。このタイプはどうにかして面白いことを言うために読む、ということが多いね。例えばイデオロギー批評は作品が依拠するイデオロギー構造を炙りだし、それが社会的にどのような価値を持ち得るのかを追求する。脱構築批評は作品の全体像ではなく特定の部位を凝視し、そこに含まれる抑圧と差異の構造を描き出して社会的ドグマの転倒を図る。

世の中には悪質な批評家も多いけれど、忘れられた作家を甦らせた批評家もたくさんいるよ。シェイクスピアが近代においてはいったん忘れられていたという事実を知っているかな? 彼もまた批評家によって発見されたんだね。そして繰り返し再発見されている。現代演劇への影響でいえば、ヤン・コット『シェイクスピアはわれらの同時代人』の存在が極めて大きい。この本は批評界のマスターピースだよ。

批評タイプの読みの目標は、作品の再評価と文脈の再形成だ。ひとと作品とを新たに繋ぎなおそうという試みなんだね。

取り急ぎ補足すると、ここでテキトーに作家と呼んでいるのは、理論上は〈経験的作者〉と呼ばれるものだ。歴史上実際に生きていた作家さんのことだね。これに対して、物語はそれ固有の〈モデル作者〉を形成する。同様に、物語は固有の〈モデル読者〉を要請する。モデルの概念についてはまた日を改めて紹介しようかな。


三、創作タイプ。

創作を志向するひと、というか、創作の才能のあるひとは、作品を読む際にとことん細部にこだわる。好きな文章、好きな性格、好きな展開を具体的に記憶するんだね。「好きな作品の好きなところはどこ?」と聞かれて概要ではなく細部をスラスラと答えるひとは創作経験の有無にかかわらず創作タイプだ。実際問題として、細部を記憶しているひとはそのアレンジによって創作できるから作家に向いているよ。創作においては漠然としたイメージではなく、具体的な細部のストックが重要なんだ。

神は細部に宿る。作家が創作する際に重視したことも細部を見つめることでわかることがある。ビジネス書ひとつを取っても、その見出しやレイアウト、文字の大きさを分析することで作者の目論見やターゲット層が見てとれるよね。同様に、ライトノベルの会話のリズムや人物造型の綾、純文学のライトモチーフや描写の視角を分析することで、作家の目標や達成水準を見て取ることができる。

ちなみに、キツネの教科書の一つは『ナボコフの文学講義』。これを読むと、作家がどれだけ細かい部分に目を配っているかがわかる。流行りのWeb小説の参考にはならないかもしれないけれど、少なくとも文学の参考にはなるだろう。


◆キツネの習性

じゃあキツネはどのタイプなのか?

全部だよ。好きな作品は創作タイプで読むし、評論する作品は批評タイプで読むし、それ以外は印象タイプで読む。キツネは創作論に興味がある。創作論を考えるにあたっては、上記一から三の横断が不可欠だ。作家の視点、批評家の視点、一般読者の視点、これらを統合したところに創作論は成り立つ。

横断できるということは、上記の分類は目安に過ぎないということだね。あらゆる分類は目安に過ぎないとキツネは思う。アリストテレスのカテゴリーにもカントのカテゴリーにも異論がある世の中だからね、当然だね。と強弁して終わるキツネ。だいなしだね!


それでは今日のお喋りはここまで。

また会いに来てね!

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